560人が本棚に入れています
本棚に追加
2:奪われた管理世界の権能
俺の疑問にこたえるように、『星華の刻』の女神様が口をひらく。
「この世界が多くの人に愛され、そして二次創作の世界でも愛されているのは、あなた様もよくご存知かと思います」
───それはまぁ、当然のようにエゴサもするし、よく知っている。
わりと『なかの人』と呼ばれるスタッフにとって、純粋にファンアートというのはうれしい反響のひとつだったりするし。
個人的な意見としても、うちの子を描いてもらえるってのは、物書きからすれば、やっぱりめちゃくちゃテンションあがるものだしな!
もちろん、その二次創作が小説だとしてもうれしいものだ。
特にこちらがゲームを通じて描きたかった世界観をくみ取り、そしてそれを大事にしているとわかる作品は、なんなら拝みたくなるレベルでよろこんでしまう。
「そうした二次創作の世界は、私にとっては『星華の刻』本体の世界と並行して広がるパラレルワールドのようなものでして、その並行世界が増えれば増えるほど、本体の世界にたいする人々の想いが増して、それを司る私の神としての力も増して安定するものなんです」
ふーん、なるほどな、一応理屈はとおっているか。
いや、ほら、よくゲームの設定とかでも、逆に人々からの信仰がなくなった神様は消滅してしまうとかなんとか……みたいな設定はあるから。
そういう観点からすれば、人気作品の世界ってのは、それなりになぞのエネルギーに満ちていてもおかしくはないだろうな、と。
「それで、『この世界をお救いください』ってのは、いったいどういうことなんだ?」
「それがですね……とある並行世界のひとつが妙な力をつけてしまいまして、なんとそちらからの侵食を受けてしまったんです!」
俺の問いに、女神様は目にいっぱいの涙をためて訴えてくる。
お、おう、それは大変だったな……?
でもそんなことが起きたとか、ほかの並行世界からでも、おなじように侵食される危険性があるってことじゃないのか?
この世界線でのセキュリティ事情は、いったいどうなってるんだよ??
「えーと……二次創作とは原作から薫陶を受けて世界観を構築しますので、そこは構築に必要な……って、えぇい!まだるっこしい!ざっくり申しますと、こっちの本体のほうが強いから、本来なら侵食されようがないんです!」
おい、いきなり説明放棄したぞ、この女神様!?
「と、ともかく……その並行世界のひとつと偶然つながってしまったんです!彼女の……腐りきった世界と!!」
おぉ、ということは、その二次創作の作者さんはいわゆる腐女子だったということか。
「そしてつながった箇所を足がかりに、向こうはこちらを侵食してきて、一部の権能が奪われてしまったのですうぅ!!」
「一部の権能って?」
「物語創作者と呼ばれるものですぅ!」
……うん?
なんだよ、それ……?
「こちらは読んで字のごとく、この世界の物語をつむぐ能力ですぅ!本来ならご自身で構築された二次創作の世界でしか使えない権能のはずなのにぃ!」
ぴえぇと泣く女神様は、もはや威厳もへったくれもないけれど。
「───なるほどな、それを奪われたってことは、原作のほうまで、勝手な話の改変もできてしまうってわけか」
「ご理解がはやくて助かりますぅ!」
なるほどねぇ。
「とにかく勢いだけはあるので、現在進行形で世界の一部が大幅に改変されてまして、このままではこの世界が腐海に沈んでしまいますぅ~~!!」
と、そこでふたたび女神様は両手で顔をおおって泣きくずれる。
つまりどういうことかと言えば、どうやら原作のゲームの世界が、BLをこよなく愛する二次創作者によって乗っ取りを受けたということだろうか。
別に二次なら、キャラ同士を絡ませるBLだろうと偏見を持つつもりはないし、なんなら腐向けの演出も多少入れたりしてたけど!!
……でも、見逃せるわけがないよな……?
だって『星華の刻』は乙女ゲームであって、BLゲームじゃない。
ジャンル自体の改変となると、うーん、さすがにそれは見過ごせないだろ!?
そりゃ人気の二次は、なんなら公式並みに人気があるかもしれないけれど。
けどな、こっちにも『公式のなかの人』っつー意地があんだよ!!
そんな素人に、大事な我が子同然の世界観を好き勝手に改変させるかっつーの!
「そこで、創造主様の出番なんですぅ~」
「ほう?」
「創造主様がお持ちの世界創造者の権能は、多少発動制限かかりますけど、まさに万能ですからぁ!」
ドヤ顔をする女神様は、少しかわいらしかった。
「向こうのカードがキングなら、こっちはジョーカーを切るまでですぅ!ということで、創造主様ぁ、あとはよろしく頼みますぅ!!」
「あー、ハイハイ」
きゃぴるんと星を飛ばしてくる女神様に、適当に返事をする。
あーあ、俺も疲れてんなぁ、こんな夢見るなんてさ。
でも、ちょっとだけワクワクする。
人気の二次創作者との真っ向対決なんてさ、ずいぶんプライドを刺激する内容じゃないか!
───なんて思っていた俺は、決しておかしくはなかったと思う。
だって、自分が開発にたずさわったゲームのキャラクターが出てきて、しかもゲームの世界を助けてくれなんてさ。
どうかんがえても夢だと思うだろ、ふつう。
「────っ!?」
けれど、ハッと目をさましたところで、さらに目を見ひらいた。
なんだよ、このロココ調のゴッテゴテにゴージャスな室内は?!
こんな場所知らない……はずなのに、その一方でやけに見おぼえがあるこの景色。
それもそのはず、これは開発途中に飽きるほど見た、『星華の刻』の舞台である寄宿学校の寮内の背景画像とおなじだ───。
そのことに気づいた俺は、サァッとあたまから血の気が引いていくのを感じたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!