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1:原作世界が乗っ取られた?!
───クリエイターにとって、二次創作というのはありがたいものであり……そして時として大変に厄介なものである───
これぞ真理だ。
もちろん元の作品が大好きなあまりに、もっとその世界観を味わいたいという気持ちから生まれるものである以上、クリエイター側からすれば、そこまでハマってもらえたなら非常によろこばしい気持ちになるものではある。
それはもちろん、二次の内容がエロだろうと純愛だろうと、ギャグでもシリアスでもかまわない。
ついでに言えば、百合だろうとBLだろうといっこうにかまわなかった。
なんなら商業的な目線から言えば、そうした二次創作の対象となりうる作品でなければ、ヒット作とはなり得ないと言っても過言ではないくらいだ。
───無論、原作へのリスペクトが根底にあればこそ、ではあるのだけど。
でもな、俺が制作スタッフとして参加したのは、あくまでも乙女ゲーであって、断じてBLゲーじゃない。
そこだけは声を大にして言いたい。
そこんところ、わかってるんだろうな改変者さんよ!?
『どうか、この世界をお救いください、星華の乙女よ!』
そんな美しい女神様の、鈴の音のような声からスタートするファンタジー恋愛シミュレーションゲーム、それが『星華の刻』だ。
俺がシナリオライターとして、制作にたずさわったそれは、最初は家庭用コンシューマーゲームのソフトとして発売された。
しかしそれは予想以上に根強い人気となり、少しずつバージョンを変え、新しいハードが発売になると同時に移植されていった。
そして最終的にはスマホのアプリにもなり、ソシャゲにもなりアニメ化もされ……さらに裾野を広げていった。
開発者側からすれば、こんなに息の長いコンテンツになるとは思わなかったといったところだが、なんにしてもそこまで愛されるモノになったことは、ありがたいことに変わりはなかった。
俺にしても、そこでメインではないにせよ、そのシナリオライターをやっていたという実績は、それなりの名刺代わりになってくれたし、代表作と言っても過言ではないのだろう。
そして、それだけのヒットを飛ばした『星華の刻』は、当然のように同人の世界でも人気を博した。
どれくらいかと言えば、『夏冬の某イベントで、ジャンルコードが独立でできるくらい』だ。
わかる人には、それがどれだけすごいことか、わかってもらえると思う。
ただ、少し待ってほしい。
その『星華の刻』のオープニングに出てくるはずの女神様が、なぜか俺の前にいる。
しかもオープニング同様、両手を組んで祈るポーズで。
「どうが、ごの世界をお救いぐだざいぃぃ、我が創造主様ぁぁぁ~~!!!」
残念なことに美しいはずの顔は、涙と鼻水でグチョグチョで、なんならおねがいする声もすべてに濁点がつくくらい、にごっていたけれど。
おい、いったいこれはどういうことなんだ?!
思わず、目の前の女神様をつかまえて問いかけそうになる。
「それが~~、この世界の一部の権能がぁ、乗っ取られてしまったんですぅ!」
女神様は、あいかわらず残念きわまりない姿のままに号泣している。
あー、ティッシュなんてあったかな?
そう思った矢先、ティッシュケースが手もとにあらわれた。
やわらかさを売りにするそれを箱ごとそっと手渡せば、女神様は派手な音を立てつつ鼻をかんだ。
どういうことだ……?
必要だと思ったものが、都合よく目の前に出てくるなんて……。
そこでようやく俺は、今自分が置かれている環境に目を向けた。
一面の濃紺の世界に、白く光る星が無数に散らばって見える。
まるで宇宙だ、そう思ったところで、ハッとする。
これ……ひょっとしないでも星華の刻のパッケージイラストの背景と似ているぞ?!
「はい、そうですぅ、ここは『星華の刻』の世界を管理する空間なんですぅ~」
鼻をぐずぐずさせたままの女神様は、そんなことを言う。
いや、たしかにあのゲームの裏設定では、宇宙に似た空間から、女神が世界を見守ってるというのがあったけど。
でもそれは、スタッフ内でしか共有されてない情報だぞ?
「それは私があの世界を見守る女神だから知っててあたりまえだし、だからこそ、ここにいるんですぅ!」
……おぉ、それは失礼した。
って、だからちょっと待て、ならどうしてそこに俺が居るんだ?
あれか、このゲームが好きすぎて、こんな夢でも見てるとか……?
いや、たしかに俺からすれば、このゲームに出てくるキャラクターはどれも我が子のようにかわいいし、その世界観だって大事にしているものだけどさ。
「はい、だからこそあなた様をお呼びしたんです!彼女に抵抗できるのは、オリジナルのストーリーをつむいだ方だけですから!!」
ん?
彼女??
それはいったい、どういうことなんだ……?
よくわからないままにここにいる身としては、早くそのあたりの説明がほしいところだ。
たとえこれが夢だとしても、そういう世界観の設定って、大事だからな。
もはや職業病にも近い、そんな感想を抱いたのだった。
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