北海道編

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北海道編

七月三十一日 北海道の稚内空港を降り立った水翔とジョンは、日本最北端の地、宗谷岬を目指します。 風もなく、穏やかな天気です。 はじめての北海道でのサイクリングは、大地と海が広大な印象で感慨深いものがありました。 時間は昼時で、交通量の少ない海沿いの国道二百三十八号を北東に進みます。 ほとんど疲れることもなく、宗谷岬に到着しました。 「日本最北端の地」という碑が立つ海沿いの広場で、ジョンとともに記念撮影をします。 辺りを見回すと、やはり海が広大で迫り来るように感じます。 国道沿いに目を向けると、三軒ほどの店がありましたが、やはり最北端の地、冬は厳しい寒さなのだろうと想像しました。 その後、この日の宿泊予定地である稚内の街を目指します。 国道二百三十八号を引き返し、二、三時間ほどで稚内の街に到着しました。 稚内の港には、ドームという風雨がしのげるコンクリート製の壁があり、自転車ツーリストたちがテントを張っていました。 水翔とジョンも空いているところにテントを張り、他の自転車仲間と会話を交わします。 水翔の同行者が外国人だから、みんな水翔のことを気遣ってくれました。 「水翔くん、ジョンと一緒にがんばって!」 「水翔くん、大変かもしれないけど応援してるよ!」 水翔は、自転車仲間の温かい言葉に感謝していました。 でも、体力があるのはジョンの方だから、僕の方こそジョンに迷惑をかけなければいいな、と考えていました。 八月一日 主に日本海側の海沿いの道を南下し、羽幌(はぼろ)まで行きます。 羽幌は北海道の北の方に位置する西側に海がひらけた街です。 北海道の道路は広くて直線が多く、交通量が少なかったです。 また、車のドライバーも自転車を追い抜くとき、大きく避けてくれます。 思いやりのある方が多いと感じました。 自然にふれあう機会が多い北海道の方々の心が、優しさに溢れているのだろうと思いました。 夜は羽幌の浜辺にテントを張ります。 風がほとんどなかったため、海は穏やかです。 波の音は大きくなく、ぐっすりと眠れました。 八月二日 日本海側を通る国道二百三十二号を南下し、留萌(るもい)まで行き、その後内陸へ入り滝川まで行きます。 留萌はとても大きな港町です。 滝川は夜に到着したため、景色はあまり分かりませんでしたが、整然とした街のように感じました。 滝川に着く辺りから、水翔とジョンは足が痛くなります。 まだ、必要な筋肉が付いていないのに三日間で三百キロメートルほども走ったことが原因であると考えられます。 八月三日 国道十二号を南下し、札幌まで行きます。 札幌は、北海道の道庁所在地で北海道の中心都市です。 北海道では、東京にいた頃より格段に食事がおいしく感じました。 素材が良いからなのか、水翔とジョンがいつも自転車で走っていて、お腹が空いているからなのかは分からなかったのですが…… 札幌の中心街はほとんど全ての道が直角に交わっていて、信号の名前も「北二西四」といった表記となっています。 ひとつの区画ごとに、東西と南北で一つずつ数値が変わります。 そのため、住所と信号の名前がリンクしていて、目的地の住所さえ分かれば迷わずに行ける便利な街でした。 ジョンはリム(タイヤより内側の金属の輪)にヒビが入っていたので、サイクルショップで交換を依頼します。 修理完了は二日後になるとのことでした。 それまで札幌に滞在することとなります。 八月四日 せっかくなので札幌市内を観光したりしました。 ひとまず病院で、痛みが引かない足を診てもらいます。 レントゲンをとってもらいましたが、骨などには異常はないと診断されました。 お医者さんには、時間経過で治るでしょう、と伝えられます。 実際、数日後には痛みはひきました。 北海道庁旧本庁舎(明治二十一年建築、レンガ造り)、北海道大学などを観光しました。 北海道大学のキャンパスは広くて緑があふれ、欧米の大学のイメージが浮かびました。 fe3416eb-3bd1-4211-bf36-fab7da42be69北海道大学内 夜はサイクルショップで知り合った、ジョンと同じ国出身のダニエルの家に泊めてもらいます。 ジョンとダニエルは、祖国の話で盛り上がり、水翔はジョンとダニエルの祖国の話に聞き入っていました。 八月五日 国道五号を西に進み、余市(よいち)まで行きます。 余市はニッカウイスキーの工場が有名な街です。 ジョンの自転車の修理は完了し、札幌を出発します。 この日は、大雨洪水警報が出るほどのあいにくの天候となりました。 途中の坂の多い街小樽では、雨水が濁流となって道路を流れます。 タイヤが水に浸かりながらも普段のペースを維持します。 小樽から先は海沿いでトンネルが多い道となりました。 激しい雨と突風で、何度も転びそうになります。 トンネルの出口では、雨が激しい勢いで顔に当たります。 あまりの強さに、目を開けづらいほどの痛みを感じました。 風雨に耐えられず、一日で進む目的としていた距離(百~百二十キロ)をあきらめて、余市で民宿に泊まります。 びしょ濡れになった服は、民宿のボイラーで温めてもらい、無事に乾きました。 八月六日 国道五号、二百七十六号、二百二十九号、北海道道を通り南西に進み、長万部(おしゃまんべ)に行きます。 長万部は、北海道新幹線の停車駅予定地で、海に面した街です。 印象深いのは国道二百二十九号です。 海からすぐ崖になっているところの狭い場所に道路が作られています。 崩れそうな場所が多々ありました。 実はこの国道二百二十九号には、過去に崩落を起こしたトンネルが少なくともふたつあります。 道路は、生活に不可欠なインフラですので、その安全管理の難しさを感じました。 八月七日 国道五号を南下し、函館へ行き、フェリーで青森へ行きます。 青森県は本州最北の県であり、また青森は県庁所在地でもあります。 この日にたまたま知り合った自転車ツーリスト三人とともに、途中まで五人で走ることとなりました。 多人数で走るのも楽しかったです。 いつもと違う仲間がいるというのは新鮮で、より心強いものがありました。 イカめしで有名な森(という地名)で三人の仲間と別れます。 理由は、函館方面へ向かうルートが違っていたためです。 その後、水翔とジョンは函館にたどり着き、フェリーに乗って二時間ほどで青森に到着します。 水翔にとって、東北は方言があり聞き取りにくいときがありました。 しかし、ジョンは東北の高校に在籍していたこともあったので、方言を聞き取ることが出来ました。 東北では、ジョンの方が地域の方々とのコミュニケーションが得意です。 ともあれ、北海道を通り抜け東北までやってきました。 次回、東北・新潟・北陸編です。
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