忘れていたことは

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私は卒業アルバムをそっと見つめる。懐かしい写真だらけ。特に目に留まった写真は、体育祭での一位を取った大縄跳び。苦手ながらみんなで飛んだ大縄跳び。修学旅行で広島の原爆ドームで撮ったクラスの集合写真に、電車での食事風景。それからグループで巡った京都の神社仏閣の数々。 笑顔でピースしてる私や班のメンバー。 二人でお揃いの狐の御守りを持ってる写真まである。 私は今と違って長い髪で。あいつは長い髪を結んだ感じで。前髪は切ってて。 そうだ私はあいつとお揃いで狐の御守りを買ったんだっけ。 そんなことも忘れてたんだ私は。仕事で忙しかったから仕方ないよね。自分に言い訳をする。 ずっとなぜかスマートフォンにつけていた狐の御守り。なぜつけていたのかすら忘れてたんだ。 明日がタイムカプセルの掘り出しの日じゃなかったら、私もっと長いこと忘れてたんだろうな。 気がつけば涙が机に、卒業アルバムに。こぼれている。 名前すら思い出せてないのに。あいつと一緒に御守りを買ったってことしか思い出せてないのに。 卒業アルバムをみれば名前はわかるだろう。でも記憶と一致するかは、また別。 私は気がつけばさらにさらに、ページをめくっていた。 文化祭のカフェの写真に、クリスマス会のクイズ進行。あいつとやけに一緒に写ってる。なにか思い出さないといけないのに。名前以外にも大切なこと。 クイズの内容はたしか、先生にまつわることとか今年のイベントで起きた珍事件のことだった気が。でもダメだそれ以上思い出せない。 さらにめくるめくる。 特に目が止まるのは 卒業遠足。また同じ班。横浜を探索したんだった。大きな観覧車に班で乗る写真。写真は無いけどたしか食べ放題いって中華饅食べたんだっけ。 あれから二年後に行った時は美味しかった訳じゃないのに。あのときは美味しかったっけ。 うーんもう少し、もう少しで思い出せそうなのに。 ダメだ。思い出せない。 さらにめくっていくと卒業式のリハーサル。 これが残ってる最後の写真だ。 窓の外の桜。そう桜だ。うっ。大粒の涙がこぼれる溢れ出す。 急に頭のなかが壊れるかのように思い出が溢れ出す。指切りしたんだ。桜の木の下。またタイムカプセル掘り出すときに会おうって。 あの狐の御守りは、そのとき交換したんだった。 あいつの名前は星川 陽 私はなんで忘れてたんだよ。出会いは、たしか一年の時理科の研究の二人組で声かけられなくて、それでかけてくれて。それ以降なんやかんやで色々一緒にしてくれた。 明日どんな顔して会えば良い?それでも会えると思うと嬉しくて。涙は止まらない。 忘れてたのに、思い出したら会いたくて仕方ない。 私は不思議と明日が楽しみで仕方ない。 タイムカプセルの中身なんて関係ない、あの約束を果たすために。中身より、あいつに会えるのが楽しみで仕方ない。 そうだ、最後のページのメッセージ。 たぶんあいつのもある。いや名前思い出したんだから名前で呼ぶべきかもしれないけど。 「美子今度会うときはぜったいに狐の御守り持ってこいよな約束だからな!」と。少し横殴りで、でも想いのこもったメッセージ。 声に出して呟く。もちろん!と。私忘れてたくせになに言ってとは思いつつ。
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