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 もう一度、額の汗を拭いた後、恵一は再び歩き出した。路地の両側に並ぶ民家の多くは暴風除けのフクギを屋敷周りに植えている。幹はどれも太く、百年二百年と経っているものばかりだった。  恵一に声を掛ける者がいた。  声を探すと公民館長の家の隅にある小さな畑の中に人がいた。恵一が答えると姉さん被りをした奥さんが茄子とピーマンの畑から出て来た。 「キハダマグロ、少しだけど持って行ってちょうだい」 「キハダですか。それは嬉しい。いただきます」 「昨日ね、善一(ぜんいち)が沢山持ってきたのよ。パヤオに出た船はみんな大漁だったみたい。少しだけど持ていって」  善一というのは館長の弟の息子で、親子で漁師をしている。主に養殖モズクをしているが、時間があるとパヤオまで船を出して獲った魚を漁協に出していた。二年程前に館長の誘いで弟の船でパヤオまで行ったことがある。やはりキハダマグロが良く釣れ、シーラも数匹釣れた。  奥さんは水道で手を洗うと家に入り、しばらくするとビニール袋を手にして戻って来た。 「沢山じゃあないわよ」 「一人ですから沢山は要りませんよ。ありがとうございます」  受け取りながら「館長は公民館ですか?」と訊いた。 「それが入院しているのよ」 「入院?また、どうしてですか?」 「膝に水が溜まってね。一昨日、水を抜いたんだけど痛みが取れないって、そのまま入院なのよ」 「大変ですねぇ」  渡された袋を覗くと、ラップに包まれたキハダマグロのブロックとピーマンが五つ六つ入っていた。 「遠慮なくいただきます。館長には誰か付いているんですか?」 「付き添いなんかいらないわよ。一週間もしないうちに帰って来るわ」 「そうですか。じゃあ、これ、いただきます」
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