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「話をしてもいいか?辛いようなら、今日は傍にいるだけにする。」
未来は首を振った。
「大丈夫。話して下さい。」
鼻声の未来がそう言うと、青島は部屋に置いてある椅子を持ってきて座り、未来の手をそっと握った。
「昨日、工場から出てチェックインするために一旦ホテルに戻った所で、ロビーで待ち構えていた松本さんに声をかけられた。例のブログ、あれに書かれてるやり取りは確かにあった。ただ俺が話したことは全部、未来、お前のことを思って言ったことだ。」
「えっ?」
目を見開いた未来が青島を見ると、バツが悪そうに笑っている。
「浮かれてたんだよ。お前がオフィスにいることに。あとは彼女の派遣という立場に油断した。」
「松本さんの気持ちに気付いてなかったんですか?全く?」
青島は首を振った。
「それどころか、お前とのことを知っていると思っていたんだ。知っていても不思議はないだろう。」
「お前は気付いていたのか?」
青島はハッとしたように、未来の顔を見た。
未来は首を傾げてから、小さく頷いた。
「とにかく俺の話を自分相手だと思い込んでると知って、適切に対処しなければと思った。」
「彼女に連絡するまで待つように言って、ひとまず部屋へ帰した。それからチェックインとチェックアウトを同時にしてから、領収書にチェックアウトの日付を書いて貰ったんだ。」
「そして神田さんに電話をして事情を話し、翌朝、会社のビルの前で俺を待つように松本さんへ連絡して貰ってから、派遣会社の担当を呼ぶように指示した。」
「ホテルに泊まらなかったんですか?」
未来が驚いて聞くと、青島は頷いた。
「ホテルに泊まってしまったら、部屋を行き来したと、万が一訴えられても証拠がないからな。ロビーでの行動なら防犯カメラにもしっかり残るだろうし、それにお前のことも考えた。」
青島はそう言って、未来の頬に触れた。
「じゃあどこで…。」
「そこまでしたのに、どこで一夜を明かしたのか、身の潔白が証明出来ないと意味がない。そこで宮下さんだ。」
「えっ?」
未来は更に驚いて、頭を起こした。
「夕食は約束があったから、その後に例のバーで会うことになっていたんだ。宿直室でも何でもいいから、俺にやましいことがないと証明できる所で寝かせてくれと彼に頼んだ。最初は嫌がっていたが、渋々引き受けてくれた。」
「宮下くんが嫌々ですか?面倒見いい人なのに。」
不思議そうに話す未来に、青島は何食わぬ顔で言ってやった。
「そりゃ嫌だろうな。初恋相手の恋人なんか。」
青島の言葉に、あっと言ったまま未来は黙り込む。
その様子に、ふんっと鼻で笑って青島は話を続けた。
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