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「俺を宿直室に泊めたと知られたら、自分の首が飛びかねないと、部屋を用意してくれてたよ。申し訳ないことをした。」
「あとは、お前が見た通りだよ。しかし、ああいうのもポジティブって言うのか?何でも自分の良いように受け取るんだな。今日付けで派遣は打ち切りになった。」
「そうなんですね。」
散々振り回されたのに、松本明穂のことが何だか不憫に思えて、未来は声を落とした。
「こちらに落ち度はなかったとはいえ、派遣社員を受け入れたのは初めてだったからな。配慮するべきところはあったかもしれんと、寛大な処置は求めておいた。」
こちらが気に病むことはないかもしれないが、それでも後味は悪く、寛大にと言った青島の気持ちは理解できた。
「まだまだ話し足りないが、続きはあとにしよう。」
青島がそう言うので、未来は気になっていたことを口にした。
「涼子さんに謝りたい。涼子さんだけにでも、連絡しておきたいです。」
「そうだな。心配してるだろうから、電話してみるか。」
青島は携帯を取り出すと、電話を掛け始めた。
「未来、大丈夫?」
電話に出るなり漏れ聞こえてきた涼子の第一声に、未来の目はまた潤んだ。
「熱はあるが、とりあえず大丈夫だ。」
「熱⁉︎やっぱり体調が悪かったんだ。コピーはOKだったってちゃんと言ってあげてね。大丈夫だからって。」
青島は苦笑しながら返事をして、未来の耳に携帯を当てた。
「涼子さん。ごめんなさい。大事な仕事だったのに、無責任なことしてしまって。」
突然聞こえてきた未来の声に、涼子は驚いたようだ。
「未来?良かった。私でも飛び蹴りする勢いだったんだから、未来がショック受けるのは当然だよ。仕事は上手くいったし、と言っても相手がうんと言うかは分からないけど。」
「でもとにかく、貴女の体調不良は確かなんだから余計なこと考えないで、早く治してね。」
「本当にごめんなさい。涼子さん、ありがとう。」
未来が礼を言い終わったのを確認すると、青島は再び涼子と言葉を交わしてから、電話を切った。
「宏さん、夕食は…」
と未来が言いかけた所で、玄関のチャイムが鳴って青島が出て行くと、何やら話し声とカチャカチャといった音が聞こえてくる。
しばらくしてトレイを手に持った青島が、部屋に戻って来た。
「佐々木さんが、夕食を持って来てくれた。」
「綾香が?」
「正確には王くんと二人で作ったみたいだが…。」
どことなく不服そうな青島だったが、先程まで座っていた椅子にトレイを置くと、また部屋を出て行ってしまった。
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