夕晴

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青島が風呂から上がってくると、未来は横になって目を閉じていた。 夕食を終えて風呂を借りると言った青島に対して、帰っても大丈夫だと未来が言った時には、心底呆れて思わずアホと言ってしまっていた。 薄明かりの中で、宏さんと未来が呼ぶ。 「眠れないのか?」 とベッドに腰掛けた青島は、未来の額に手を当てた。 「まだ少し熱いな。」 青島が心配そうに言って、何故か未来は不満そうな表情になった。 「風邪って、何をもって風邪って言うんでしょう?喉が痛いわけでもないし、咳やくしゃみもないし、熱があるだけで。」 未来の言葉の意味するところが分からなくて、青島は困ったように笑った。 「疲れているところに雨に濡れて、熱が出たんだろう。弱ってるところを無理したら、風邪を引くかもしれないな。」 「じゃあまだ風邪ではない?」 「医者じゃないから分からんな。どうした?子供みたいなこと言って。」 未来の頭を撫でながら、青島は優しく言った。 「風邪なら感染るから、宏さんは和室で寝てもらわなきゃと思って…。」 未来の話を遮るように、青島は毛布の上から覆い被さった。 「そこは一緒に寝たいから、隣で寝てって誘われた方が嬉しいんだけどな。」 「えっ?でも感染(うつ)したら申し訳なぃ…。」 次の瞬間、うるさいと言って口を塞いだ青島から 歯磨き粉の味がして、未来は自分が歯を磨いていないことを思い出した。 少し長い、優しいキスの後、鼻が触れてしまいそうな距離で青島が言った。 「今日は何もしないつもりだったのに、全く。」 未来は二人の間の僅かな隙間に、手のひらを滑り込ませると、自分の口を押さえた。 「これ以上、何もしないなら、隣で寝てもいいですよ。」 青島が笑って首を振ったので、鼻がぶつかって未来は体をすくめた。 「違う。おねだりするんだ。」 未来は眉をひそめて、んーっと唸り声を上げた。 「一緒に…寝ましょう?」 青島は唇を押さえたままの未来の手にキスをすると、そのままベッドに潜り込もうとしたが、今度はそれを止められた。 「何だ?」 「歯磨きしてきます。」 思いがけず、自分の前からすり抜けるようにベッドを降りた未来の腕を、青島は咄嗟に掴んでいた。 「大丈夫ですよ?」 熱のある自分を気遣ったのだと未来は思ったようだった。 「ああ、待ってる。」 未来は笑って部屋を出ていき、青島は天を仰いだ。 捕まえるのは一苦労なのに、簡単にどこかに行ってしまいそうで、時折いわれのない不安に駆られる。 そんな不安を振り払うように首を振った青島は、さっきまで未来が寝ていた枕と、その隣に並べられた、まだ新しい自分の枕を眺めた。 俺も思い込むことにするよ。 お互いの場所にお互いの居場所もあると。 青島は未来の枕を軽く叩くと、自分の枕を隣に直した。
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