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そうだ、僕の空と鹿島の海が近付いたのかもしれない。立方体の正体はわからないけれど、今まさに変化しようとしているのかもしれない。動かなかった時間が動き始めている気がした。
いいのか、僕……近付かなくていいのか。心を決めて彼女を呼ぶ。
「鹿島」「岡田君」
僕が言葉を発すると同時に彼女も僕を呼んでいた。彼女は驚いた顔をしている。僕もそうだろう。少し慌てて彼女に続きを促した。
「え、あ。鹿島、先にどうぞ」
「ううん。岡田君が先に」
「そう? じゃあ、その、カフェ……カフェにでも行かない? コーヒーとかカフェラテとか飲もう」
彼女は驚いた顔をそのままに、少し大きめの声で答えてくれた。
「私も! そう言おうと思ってた。ね、おすすめのお店あるから連れてってあげる!」
いつにもまして強引な様子の彼女がおかしくて、笑いながら僕は了承した。
歩きながら『立方体がないと視界がいいね』とか些細なことに共感しあう。自分の周りを十センチの立方体がふわふわ浮いている人間なんてそう多くはいないだろう。こんなところで共感を得られる人はなかなかいない。
カフェでは立方体の話はほとんどしなかった。映画や小説、興味があること……鹿島と一緒にできたら楽しそうなことをたくさん話した。ふたりで笑いあって、時間は過ぎていく。
昼になり、違う店でランチして、また話す。そして、気付けば夕方になっていた。さすがにそろそろお開きにした方がいいだろう。
「また来週」
「うん、またね」
彼女の笑顔をもっと見ていたい。心の底からそう思った。
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