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 冬になっても僕らの関係は変わっていなかった。相変わらず日曜日に二人で会うという関係だ。でもまったく変わっていないわけじゃない。一緒に食事をしたり、本を交換したり、映画を見たり、少しずつだけどやることが増えていた。  立方体については、その正体を考察しながら多くのことを試していたのだけれど、結局はくっつけて消すことが多かった。会うたびに世界を近づけ消していく。そんな日が続いていた。  少しずつだけど、一人でいるときに立方体を見つめる時間は減っていた。それよりも立方体の向こうの彼女の世界を思い浮かべる時間が増えていた。  そして、ある日曜日の朝。いつもよりも暖かめのコートを着込んだ彼女は僕に会うなり立方体の海を指さして言った。 「岡田君、上の方に海面が見えるようになったよ」 「本当だ。僕の“空”も下の方で水が跳ねてる。たぶん波だと思う」 「これは、やっぱり間違い無いんじゃない?」 「うん。海の色、明るさ、波の動き……たぶん僕の立方体が映す空と、鹿島の立方体が映す海はすぐそばにある」 「くっつけてるから、かな?」 「どうだろう? 理由としてはそれが一番自然だとは思うけど……」  言葉を濁しながらも、『ふたりの心の距離感を表しているんじゃなかろうか』なんて乙女のような期待をしていた。口には出さないけれど。 「……もう一回、やるとどうなるかな」 「どうだろう。二つとも同じ場所になるのかな?」  これまでの変化から予想するに、たぶんあと一回くっつければ二つの立方体が映す場所に隙間はなくなるだろう。  ただ、近付いている理由はさっぱり分からない。同じ場所を映すようになったとして、それは何を意味するのだろうか。
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