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 立方体が出ないということが何を意味するのか僕にはわからない。そもそも立方体が出ることの意味も分かっていないのだ。だが、あの立方体が鹿島と僕を繋いでいることを確信していた。  だからこそ日曜日の0時に立方体が出なかった時に真っ先に考えたのは彼女のことだった。鹿島の海がどうなったのか気になったし、確認することを躊躇った。  僕は立方体を伴わず一人公園で彼女を待ち続けた。だが彼女は現れなかった。六年ぶりの立方体を見ない日曜日、僕は何もせずに過ごした。ただ彼女を待ってベンチに座っていた。  それからの平日は最低の気分だった。自分を責めた。彼女も立方体が出ないことに気づき慌てていたのかもしれない。不安だったかもしれない。僕はなぜ連絡をしなかった。  いや、それだけじゃない。来ることができない理由があったのかもしれない。怪我した、病気した、入院した……悪い方向に妄想は膨らんだ。  そうして僕がやっと彼女に連絡をとる決心をしたその時、唐突に自分の心の奥底にあるものに気が付いた。それは彼女との時間で変化していく喜びの陰にあったもの。  恐怖だ。  僕はたぶん恐れていた。変わっていくことを、変わらなければならない事を。その覚悟をせねばならない事を、中学二年生の頃からずっと恐れていた。やらなければならないことではなく、やりたいことをやることを。自分で決めて動くことを。  変わるのが怖いという、ただそれだけのことに六年間も足を止めていた。  だからだろうか。僕に本当の意味での日曜日はない。縛り付けられた息苦しい平日と、定期的に訪れる立方体を眺める休日を繰り返すだけだった。  気付いた瞬間、自分の情けなさに腹が立ち、同時に彼女のことを思った。彼女はどうだろうか。僕と同じなのだろうか。同じ恐怖を抱いているのだろうか。  自分のことなんかどうでもいい。  ただ彼女のことが気になって、気付けば電話をかけていた。
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