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「おはよう」
「……おはよう」
先日、僕は初めて平日に彼女に電話を掛けた。幸い彼女は電話に出てくれて、こうして日曜日にいつもの公園で会うことが出来ていた。
だが、彼女の顔は晴れない。そんな彼女に向かって、僕は努めて何でもないことのように平然と話を切り出した。
「実は立方体が出ないんだ」
「やっぱり、岡田君も?」
「うん。“やっぱり”ってことは鹿島も?」
「うん、先週の日曜の朝から……怖くなっちゃってさ」
僕が言おうとしていたこと、それとまったく同じことを鹿島が先に話し出した。彼女もずっと考えていて、何かを決心したのかもしれない。
「なんとなく、気付いちゃったんだ。私の時間は中学生の頃からずっと停まってるんだって。生きているんだけど生きてない。自分のための時間が……ない」
「そう、だな」
納得できた。立方体があったから僕は自分を見つめる時間を持つことができ、日常をやり過ごせていたのだ。
「人って自分の時間があるから人生を積み重ねられるんだと思う。年をとるってそういうことでしょ。私はまだ大人になれてない。あの立方体ってそういうメッセージなんじゃないかな。ちゃんとやれっていう」
「僕も同じ事を思ったよ。自分からのメッセージかもって」
彼女は頷く。そして深く息を吸って、吐き出すように言葉を放った。
「だから、これでもう、会うのやめよ?」
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