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そう思うと、目の前の鹿島は幻ではなく確かに実在しているのだと納得できた。自分の脳がこんなに奇麗な鹿島を再現できるだなんて、とても思えなかったからだ。
鹿島はひとしきり笑った後、深呼吸をしてまじめな顔を作った。そして、意を決したように背筋を伸ばし、僕の指先にそっと触れた。人差し指と人差し指。軽くふれあい、互いに互いの存在を確認した。体温もわからない。だが、触れたことは確かにわかる。そこに存在している。
「ほんとにいる」
つぶやいたのは鹿島だった。察するに、彼女も僕のことを幻ではないかと疑っていたのだろう。だが、僕たちの特殊な事情を思えば無理もない。
「……空、見える?」
僕が尋ねると、鹿島は静かに答えた。
「うん。ねぇ、海、見える?」
「うん、見える」
僕たちのそばには一辺十センチほどの立方体が二つ浮かんでいた。
一つは“空”を映し出す不思議な立方体だ。地球上のどこかの青空をサイコロ型に切り取って透明な箱に閉じ込めたような立方体。そして、もう一つは同じ形状ではあるものの、“海”を映し出していた。
それは、僕が誰にも共有できなかった美しいもの。ただただ見つめてきた自分だけの世界。僕の空と、鹿島の海。
生まれて初めて誰かを理解し、誰かに理解されたのだと、僕は感じていた。
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