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彼女は一気に顔を赤くする。真っ赤だ。この三ヶ月で見ることができなかった顔。そして高校時代を思い返しても見たことがない顔だ。
「うえ!? と、突然だね……」
「たぶん、僕はこのままでいいんだと思う。鹿島も……無理をする必要はないんじゃないかな。僕はこのまま、このままの僕で色んな経験をして、生きて、年をとって、死ぬんだと思う」
彼女は小さく頷いた。一辺二十センチの立方体を見て、同じことを考えてくれたのかもしれない。
「そう思ったら……なんだろな。ふっ切れた、のかな?」
「ねえ、岡田君」
「ん?」
「私も、あなたが好き」
答えた彼女の目は優しく僕を見つめていて、また違った彼女の一面があることを教えてくれていた。
こうして、僕の十センチの世界が終わり、二人の二十センチの世界が始まった。
謎の立方体。これがどういう理屈なのかはわからない。でも僕はこれを『自分のための時間を過ごす大切さを気付かせるもの』だと解釈することにした。そう決めた。
だから今からこれは『鹿島と僕の、二人の時間を過ごす大切さを気付かせるもの』だ。
何かがわかったようで何もわからない。何かが変わったようで変わっていない。だけど、鹿島がいる。
彼女と過ごした日曜日が、足を止めてしまっていた僕の時間を動かしてくれた。
さあ、何から始めようか。平日も彼女と会えたら幸せだろうと思うけど……まずは今日だ。今日という休日を彼女と二人で――――。
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