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「君の発言にしては、軽率過ぎやしないかい」
「荒唐無稽な発言をされたら、こちらだって低い可能性であろうと提示せ
ざるを得ないからね」
私は羞恥心を隠すように、淡々と返す。
「ところで、そんな女が夜な夜な現れるというのならば、家族の者には話したのかい?」
その問いに穏やかな彼の表情が消え、沈痛な面持ちで首を横に振った。
「何故だ? 孝光君に頼めば、見張りをしてくれそうだと思うのだが――」
彼の弟は三歳下で、高等学校三年生である。やや内気な性格なのか、私とは顔を合わせれば挨拶する程度の仲であった。
たとえ私とは馬が合わずとも、兄弟である彼ならば何かしらしてくれるはずだ。
「こんな状態の僕が言っても、きっと頭がおかしくなったとしか思わない。それに……孝光は、僕の事をあまり好いてはいないんだ。これ以上は面倒をかけさせたくない」
彼の言い分は分からなくもない。だが、これではどうにも解決が出来ない。
「それならば、僕が泊まろうか」
私の言葉に、宗清は目を瞬かせた。
「この目で見れば、何かしら解決に繋がるかもしれない。一泊ぐらいなら、君の家族も許してくれるだろう?」
彼の事を信用しないわけではないが、私は半信半疑であった。それならば、自分のこの目で確かめれば良いのではと思ったのだ。
「君は……嫌ではないのかい?」
遠慮がちに問う宗清に私は、首を縦に振った。
「ああ、別にかまわん。月の綺麗な晩に現れるのだろう? 次の満月の夜にでも決行するとしよう」
私は早速、彼の家族に泊めて貰いたいと頼んだ。
彼の両親――特に父は、仕事で至る所を飛び回っている為、許可は母に委ねられた。彼女はおっとりとした性格の淑女で、何ら問題もなく了承を得た。
一方で孝光君は、少しばかし難色を示したが、反対するには至らなかった。
そこで私は彼の負担も考え、私は夕刻に訪問することに決めた。
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