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翌月の満月の夕刻。私は雪平家へと向かった。
すっかり日が短くなった秋の空には、夜には輝くであろうまだ青い月が浮かんでいる。
手土産の栗饅頭を片手に、私は雪平家の裏門をくぐる。
庭越しにいつもの縁側が見え、そこに落ち着かない面持ちの宗清がいた。
「君、大人しくしてなきゃ駄目だろう」
私が足早に近づくと、彼は私を見て苦笑した。
「どうにも落ち着かなくてね」
「とにかく座りたまえ。身体に障る」
縁側に腰掛けさせると、私はやっと安堵して隣に腰掛けた。
「夕飯は済ませたのかい? まだなら、女中に用意させるが」
そう言って、再び立ち上がろうとする宗清を、私は慌てて押しとどめた。
「大丈夫だ。さっき、腹ごしらえは済ませたから。なんだか今日の君は変
だ」
私が眉をしかめると、彼は一つ嘆息してから、諦めたように肩をすくめた。
「初めてなんだ。友人を家に泊めるのは」
彼はそう言って、照れくさそうに笑んだ。
私と彼は長い付き合いとはいえ、彼の体調を慮って、宿泊はしたことがなかったのだ。
そのことに気づき、私も少しだけ居たたまれない心持ちがした。
私はその穴埋めをするかの如く、彼が差し出してくれた日本酒を傾けながら月を見た。
「僕も少しだけ、飲もうかな」
一杯だけならと、私は彼のお猪口に注いでやった。家族が見たら、卒倒するだろう。
「寒くないか?」
近くに火鉢があるとはいえ、障子が開いているせいで冷たい外気が室内に入り込んでいた。
「問題ないよ。今日の僕は調子がいいんだ」
酒のおかげか、彼の頬はほんのりと朱が差していた。
確かに、今日の彼は元気そうで、まるで病人には見えない。
「何故だろう。今日の僕はとても気分がいい。君がいるからだろうか」
「酒を飲んだからだろう」
私はお猪口に口をつける。
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