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「こら、また大ちゃんをいじめて、ダメだって言ったでしょ」
幼なじみのみさきちゃんが、また助けてくれた。
みんなより小さくて弱いボクは、近所の子達にいつもいじめられる。
「ほら大ちゃん、泣いてちゃダメでしょ。強くならなきゃ」
みさきちゃんは女の子なのに、ボクより背が高くて強い。それにかわいいと思う。
「大ちゃん、強くならなきゃダメだよ」
「どのくらい」
「そうね……あたしより強くね」
「みさきちゃんよりも」
「そうよ、あたしだって女の子だもん、王子様に守ってもらいたいわ。お姫様みたいに」
みさきちゃんは少女マンガが好きらしく、よくその話をするがボクにはわからなかった。けど、そうか、みさきちゃんを守れるくらい強くならないといけないんだな。
──これが僕、泉大地が王子様になろうと決めたきっかけだった──
けど、みさきちゃんは親の都合で引っ越していき、僕の目標はあっさり散ってしまった。
それでも僕はいつかみさきちゃんに会ったときに、守ってあげれる王子様になろうと決めたんだ──。
※ ※ ※ ※ ※
──二十数年経った四月の夜、名古屋のレストランでひと組の男女が食事をとっていた。
ひとりは、みさきちゃんこと北島美咲。美しくそして知的な大人になっていた。
「昇進おめでとう、北島くん」
そう言ってグラスを交わしたのは、美咲の上司である岩倉部長だ。
「ありがとうございます部長。これも新人の頃から教えてくださったおかげです。これからもご指導ご鞭撻をお願いします」
「いやいや君の努力の賜物だよ。あの生意気なひよっ子が立派に成長したもんだ。うちの支店、最年少課長の記録を更新したんだから」
「言わないでくださいよ、不安でしょうがないんです。昇進もタナボタなんですから」
支店長をはじめとする一派が粉飾決算をしていたのが発覚し、警察沙汰となったことを思い出す。
そのおかげで大幅な人事異動がおこなわれ、美咲は昇進したのだ。
「まあ不安なのはわかるよ。それで君へのプレゼントがある」
その言葉に美咲はドキリとする。にくからず想っている部長からのプレゼント、なんだろうと。
「同期が本社で人事をやっていてね、こっちの事情を知って面白い社員がいるからそっちに送るって言ってくれたんだ」
「そうなんですか」
笑顔のままだが内心少しがっかりした。
「入社三年で関東周辺の支店を転勤しまくって、各地でトラブルと業績を残す経歴を持ち、ついたあだ名が[金のたまご]という人物だそうだ。それを君の部下として送るよ」
「え? え?! そんなにトラブルを起こすヤツ──じゃなくて社員を部下にするんですか」
「君なら乗りこなせるよ」
慌てる美咲に、少し笑いながら岩倉は言う。
「詳細は明日、会社でプロフィールを見てくれ。名前は──泉大地というそうだ」
「泉大地……」
美咲はどこかで聞いたことがあるなと思った。
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