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1日(※)
兄一家と両親と一緒に昨日作ったおせち料理を食べ終えた後、兄一家と両親は初詣に出掛けた。文は、昨夜遅かったから少し昼寝をするといって自宅に残っていた。
ソファに寝そべってケータイを見ると、メッセージが入っていた。伸享からだ。開くと、写真が添付されていて、「これ、一ノ瀬の?」とメッセージが書かれている。写真は、文のハンカチだった。そういえば、お茶をこぼしたときに使って・・・と思い当たる。
「うん、私のだ。ごめん、忘れちゃったんだね。」
続けて、取りに行く、と返答するか、処分して、と返答するか、迷っていた。伸享は覚えているだろうか。このハンカチは、美術部の顧問の先生が、卒業祝いにとお揃いでくれたものだった。帰省したときに使うようにと、文の実家の部屋の引き出しに入れてあった。返事を迷っているうちに、伸享から、続けてメッセージがきた。
「届けようか」
文は、身を起こした。しばらく考えて、
「取りに行く。明日は都合悪い?」
と返した。
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「文って、嫉妬しないほうだよね」
24歳のときに付き合っていた彼に言われた言葉だった。彼の会社の飲み会が終わった後、文の部屋に来て、抱き合った後の言葉だった。
「どういう意味?」
文は、上半身を起こして、裸のままベッドに寝そべる彼を見下ろした。
「いや、そのまま。前付き合ってた子とかは、会社の飲み会だっていってるのに、メッセージやら電話やらで本当に会社の飲み会か、って確認されたりしたんだけど・・・。今日だって、俺が来たら、文は何も言わずに部屋の中に入れてくれたじゃん」
ベッドの上で、前の彼女のエピソードを話すなんて、どうなの?と内心思いながら、さらりと返答する。
「だって、飲み会のあと泊めて、って言われてたし・・・。それは、その子が異常なんじゃない?・・・信用してれば、そんなしつこく問い詰めるようなことしないよ。」
「そんなもん?・・・仕事と私、どっちが大事?みたいなことも・・・」
「ないない!そんなの、比べたって仕方ないじゃん!」
文は一蹴した。
「サッパリしてるなあ~、文は」
といいながら、後ろから抱きついてくる。
「何、聞いたほうがいい?まさか合コンだったの・・・?」
後ろに怪しむような視線を向けてみる。
「ほんとに会社のメンツと打ち上げだったんだよ。ちょっと思っただけ!ゴメンって」
そういいながら、文のうなじに唇をつけて、両方の胸を捏ねる。
「今、したでしょ。もう、ダメ。」
「え~~、もう1回。」
彼は甘えるような声をだす。文の胸から手を離さない。
「私、明日仕事だから。ちゃんと、朝起きて一緒に出てね。起こすから。」
「んー、文はこんなとこもサッパリしてるなあ。たまには、もう一回して、とか・・・ないの?」
「・・・考えとく」
短く返答して、文がベッドから降りようとすると、手を引かれてベッドに連れ戻される。
「ちょっ・・・」
「そういうのは、考えることじゃないんだよなあ・・・」
声のトーンが低くなって、上から覆いかぶされ、胸を揉まれながら強引に口づけられる。
「酔っぱらい・・・」
文が逃れようと身をよじってもびくともしない。
「文も、ちょっと酔っぱらったほうがいいのかもよ。頭で考えるよりも、感情に任せてさ・・・」
そのまま、第二ラウンドに突入し、文は次の日寝不足で会社に向かうことになった。
そういわれると、これまでの恋人との付き合いのなかで、あまり感情的になったことはないかもしれない。一緒にいて、楽しんでいないわけではない。ただ、自分から積極的に、この人が欲しいとか、自分だけを見てほしいとか、そういう感情に支配されたことはないかもしれない。・・・自分は、そういうさっぱりした人間なのか、と思っていた。
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