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2日(2)(※)
高2の冬、伸享は、進路を迷っていた。
自分の希望する芸術系に進むのか、諦めて別の道へ進むのか。芸術系に進むのであれば、それに向けた予備校に通う必要がある。放課後、イーゼルを並べて隣にいる文に、進路はどうするのか、と尋ねた。
「私は、絵をかくのは好きだけど、実力は趣味のレベルだし・・・。親にも、芸術系の学校に行かせられる余裕はない、って言われてるから。普通の、っていうか、芸術系とは違うけど、少しでも関係のある学部がいいかな、って思ってる」
文は話しながら筆を走らせる。。
「沢村は、断然上手なんだし、絵をかいてると楽しそうだし・・・。行けるなら、行ってほしいけどなあ。せっかく、4年間も何かに没頭する時間がとれるなら、好きなことを極めてもいいんじゃない?・・・ダメだったら、仕切り直せばいいんだし。」
このときの、文の言葉。「ダメだったら、仕切り直せばいい」、という言葉が、伸享の背中を押した。高校受験も、模擬試験で合格安全圏の学校を選んだ。これまで、何でも失敗しないように、といつでも安全圏にいた自分の背中を押してくれた。
「沢村なら、頭いいから、普通に勉強してれば、芸術系以外の学部でも、どこか行けるでしょ。・・・まあ、人のことだから、無責任に言えるんだけど。自分のことだと、そんな簡単には決められないよねえ。」
と笑った。
それからすぐ、親に頼み込んで、美術系の予備校の冬期講習に申し込んだ。まずは、やってみよう。「ダメだったら、仕切り直せばいい」んだ。そう思えば、挑戦することができた。
努力の結果、伸享は、希望する大学に合格することができた。一方で、文は、文学部の史学科で、美術史を学ぶ道を選んだ。
「そんなことあったっけ・・・。あったような・・・。ちゃんと覚えてないや。・・・ごめん、私、無責任なこと言ってたんだね。」
文は、少し涙ぐんで伸享の肩に頭をもたれかけた。
「でも、おかげで、俺は本当に、好きなことに没頭できて・・・、四年間、楽しかったよ。・・・だから、大事にしたいんだ、一ノ瀬のことは。だから・・・」
そういって、文の頭をなでる。文は、次の言葉を想像して、ゆっくりと顔を上げる。
「だから?」
友達でいたい・・・?そんな言葉は、言わせない。文は、続きの言葉を言い澱む伸享の耳朶に、そっと歯を立てた。伸享は、ぶるりと身をふるわせる。そのまま、伸享のうなじに顔を埋めて、呟く。
「大事に、して」
文はそのまま伸享にもたれかかる。伸享が、文の耳の後ろへ手を添える。文が顔を上げると、伸享が両手で文の頬を包んで、そっと口づけた。文は目を閉じて伸享の肩に手を添える。唇が離れると、今度は額、瞼、頬と口づけが落ちてきて、再び唇に触れる。
「口、開けて」
いつもより低い声で囁かれ、文はうっとりと唇を開く。
二人の息遣いが激しくなる。伸享が肩ひもに手をかけると、文が自ら手を後ろに回してホックを外す。あらわになった文の胸を、伸享が両手ですくいあげる。文が声を上げる。
鎖骨にちゅっと音をたてて唇を離すと、赤い跡が残されている。そのすぐ隣に再び唇を当てて吸い付き、また音を立てる。
再び文の唇に軽く口づけた後、胸の先端にも音を立てて吸い付く。
声を上げながら、文が羞恥から伸享の頭を抱える。伸享は、少し楽しそうに文の顔を覗き見た。
「すごい反応してる・・・」
気持ちよすぎて文の腕の力が抜けていく。
「や、だ、だめ・・・」
文が伸享の髪の毛に顔をうずめると、
「ダメなの?」
といじわるそうに伸享が尋ねる。文は、
「ダメじゃない・・・」
とつぶやき、体を引き離して、伸享のズボンに手をかけた。
「一ノ瀬、ダメ・・・」
今度は伸享がつぶやく。文は自分でショーツを脱ぐ。顔を上げて、伸享をまたぐように体を移動させる。
何かに縋りたくて手を探ると伸享の手があった。ぎゅっと握ると、握り返してくれるのがうれしくて力がこもる。文は、ずっと焦がれていた伸享と繋がる感触に歓喜し、瞳を潤ませた。
体中がしびれる。肌が粟立つ。体が覚醒していくような感覚に襲われる。入れただけなのに、体がびくびくと何度も痙攣する。伸享も、腰をびくつかせて、目を閉じる。
「これ、ダメだ、一ノ瀬・・・」
文を強く抱きしめ、胸元に吸い付く。吸い付かれたところに、また赤い跡が残される。
「いい、よ・・・いって」
文は背筋を走る快感をこらえながら、自ら腰を動かす。
「ダメ、だ・・・また・・・」
「大、丈夫、だから・・・」
伸享が文の腰を強くつかみ、顔をしかめる。
「あっ・・・」
文も、中で膨らみ、精の放たれた感触にこらえきれず、達してしまう。一瞬身を固くした後、伸享に体を預けた。
伸享が体を動かそうとするが、文はまだ離れたくなかった。
「やだ・・・、まだ、このままでいて」
伸享のものを感じたまま、高揚感のなか、息を整える。伸享も、肩で息をして、文のほうを見る。
文が体を離そうとした時に、今度は伸享が文を組み敷いた。文の両手首を頭の上にまとめ上げ、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「え、嘘・・・、あ・・・」
「こんなに・・・、止まらなくなりそう・・・」
ペロリと舌なめずりした顔は、さっきまでの暗い表情だった伸享とは別人のような妖しい色気を放ち、文の疼きを再び生み出していく。
「ダメだって言ってるのに・・・妊娠したら、どうすんの?」
そんなことをいいながら、とん、とんとリズムよく最奥をつつかれる。
「んっ・・・、は・・・、だって・・・っ」
文は、胸を揺らす。揺れる胸に舌を沿わされると、また大きな声がでる。
「やっ・・・、それ・・・」
「ダメ?」
伸享がにやりと口角を上げる。文は涙ぐんで伸享の方を見ると、目があって、きゅうと中がせつなくなる。伸享がまたこらえるように顔をしかめる。
文が伸享にしがみつく。
「一ノ瀬・・・」
再び荒くなっていく息遣いのなかで、伸享が文の名前を呼ぶ。文は嘆願する。
「名前、呼んで。・・・下の、名前・・・」
「・・・文・・・」
耳元で囁かれて、全身にビリビリと電気が走るような感覚がする。伸享の動きが激しくなり、いなくなったかと思った次の瞬間、下腹部に温かい感触が広がる。
「は、あ・・・」
伸享が肩で息をしている。
「ごめん、汚しちゃった・・・」
体に残っていたキャミソールに、今伸享が出したものがべっとりと付着している。
「だいじょう、ぶ・・・」
息を整えながら返事をした文を、伸享が抱き上げる。
「え・・・」
伸享が向かった先は、寝室だった。大きめのベッドの上に放りだされて、わずかに残っていた衣類をはぎ取られる。伸享も、服を脱ぎ捨てる。
遮光カーテンで外の光が遮られた薄暗い部屋で、どちらからともなく、時間を忘れて何度も求め合う。
昼過ぎに外出した文が実家のドアを開けたのは、日付が変わる少し前だった。
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