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これは復讐ではない、天誅だ。
私は、怒りによって、底辺を這いずり回る腐れた蛮族どもに、天誅を下すのである。
私に非は無い。あの、人間の皮を被った獣連中が、全面的に悪いのだ。
私には幼い頃から、婚約者がいた。
蒼の髪のエカテリーナ。隣国ジョシュルの美しき第三王女。
私は彼の国へ赴き、彼女と対面した時、一目で心奪われた。
太陽が煌めくかのごとき明るい笑顔。オパールのように角度で色を変える、ジョシュル人独特の瞳。小鳥のさえずりかと聞きまごう美しき声。まだ幼いのに将来の美を約束された愛らしい顔。
全て、全てが私の心を捉えて、二度と離さなくなってしまった。
国に帰ってからも、月に一度の手紙の遣り取りが、将来の王として勉強の日々に追われる私の、唯一の楽しみであり、心の安らぎであった。
ずっと育てていたリムラの白花が咲いた事。怪我をしたのを看病していた小鳥が無事に空に帰った喜び。姉姫が他国に嫁いで幸せになった事への祝福。
王女にしてはつつましい生活の中に良き出来事を見出す純粋な性格に、私はますます彼女への思慕を募らせていった。
『来月はいよいよ輿入れです。貴方様の后になれる日を、ずっと心待ちにしていました』
まるで心に秘めた気持ちをそのまま解き放ったかのように躍る文字に、私の頬も緩んだ。
その一月後。
輿入れの一団は、蛮族の国ガスキルの連中に襲われた。
男は容赦無く殺され、女はことごとく食い潰された。
エカテリーナも例外ではなかった。
現場に馬を走らせた私を、家臣達は「陛下は見てはなりませぬ」と、必死に食い止めた。
布を被せられた数多の死体。その中に、蒼い髪がはみ出ているのを見つけた時の私の慟哭は、誰に癒せようものか。
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