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許さない。
許せる者がいるだろうか。
愛する人を理不尽に奪われ、それで平然としていられる者が。
嗚呼、エカテリーナ。どれほど恐ろしかっただろう、どれほど苦しかっただろう。
我が国からも護衛を出していれば、こんな事にはならなかったかもしれない。だが、それは仮定の話であり、ただの後悔にしかならない。
だから、私は怒る。
ガスキルの糞野郎どもに。
頼り無かったジョシュルの護衛どもに。
すぐに他の嫁を手配する、などと言った家臣どもに。
そして何より、彼女を守れなかった私自身に。
私はこれから魔王を召喚する。
城の禁書庫で見つけた、召喚術の本を読み漁り、用意はした。
鬼獅子の血で魔方陣を描き、火竜の爪、リリスの髪、ガーゴイルの翼、そして、召喚者の怒れる感情を供物にする。
召喚主の怒りを原動力に、憤怒の沼が深ければ深いほど死神は力を増し、大地を焼き、毒に染める。
そして最後に、召喚士の魂を代償に刈り取るという。
持ってゆけ。
エカテリーナを奪った世界に、煮えたぎるこの激情を叩きつける為ならば、私の魂ごとき、ひとつふたつ、いや、百でもくれてやろう。
世界が悪いのだ。私から、あの輝ける太陽を奪い、永遠の夜に閉ざした世界が悪いのだ。
私は史上最悪の王として歴史に名を残すだろう。
いや、そもそも記録をする世界が残るかも怪しい。
それでも構わない。
溶岩より熱いこの怒りで、世界が滅ぶなら、滅びてしまえ。
だが、もし。
この日記を見る者が生き残っている世界ならば、叶えておくれ。
エカテリーナの墓に、リムラの白花を供えて欲しい。
彼女の小さな喜びで、私の怒りを埋め尽くして欲しい。
そうすれば、私も幾分か救われるものだ。
魔王を召喚した魂に、救いがあるかなどわからないが、それくらいは願っても許されるだろう。
そして、私のような怒りに駆られる者が無い世界を、創り上げて欲しい。
それが、理性の欠片が残っている私の、最期の願いであるのだから。
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