怒り玉

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怒り玉

「怒」という感情はとても強い物で、それは時に玉のように丸く形作られ、そのエネルギーで人を攻撃する事も出来た。 「怒り玉」と呼ばれるその玉は、言わば生命エネルギーの塊だ。 「怒り玉」を作り出した者は、己の怒りという負のエネルギーを使う事で、それまで身の内に燻っていた怒りが無くなり、凪いだように心穏やかになれるそうだ。 東温寺春彦という若者がいた。 彼は「怒り玉」をコントロールする事に長けている者で、他者が作った「怒り玉」を譲り受ける事ができる稀有な能力の持ち主であった。 「今日はまた怒り玉が渦巻いているなぁ。ほら、ここかしこに浮かんでいるではないか」 春彦がそう言うと、周りの者は四方を見渡し、もしや自分が怒り玉を作り出したのではないか、と戦々恐々とした。 「怒り玉」を作り出すのは並大抵の怒りではないからだ。 その思いの強さが怒り玉の大きさや威力に比例する事はみなが知っている所である。 すなわち、怒り玉を見れば、誰がどれ程の怒りを抱え、どれ程の恨みをもっていたのかが分かってしまうのだ。 「どれ、今日はこちらとこちらの怒り玉とする事にしよう。」 春彦はそう言うと、徐に懐から手の平に乗るぐらいの小さな二枚貝を2つ取り出した。 二枚貝は白く、薄く、そして小さく。 表面は小波の様に等間隔に広がる淡いグレーの線模様が美しい。 合わせ目からカチカチと微かに音が鳴る事から、二枚貝は生きている物ではなく、貝合わせに使われるような物だと知れた。 「ふむ。これぐらいか、いや、これぐらいにしておくか。」 意味は分からなかったが、春彦の手の中にある二枚貝は春彦がうっすらと目を閉じて何やら口の中で呪文のような言葉を唱え出すと、仄かに輝き出した。 「やや、あれが東温寺さまのお力か。」 「ほら、怒り玉が吸い込まれていくよ!」
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