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「ゆずる!今日帰り暇!?」
屈託なく笑う優弥。
優弥の機嫌が良いのは、大概いつも同じ理由だ。
「新しい彼女できたからさ、ゆずるに紹介したい!」
この大学に入って、優弥に彼女ができるのは何回目だろう。
そして、その子を紹介されるのも。
「……だから、いちいち私に紹介しなくていいって」
ため息まじりに呟いて、彼から目をそらした。
もうすぐ講義始まるし、という健全な理由で早歩きを始める。
「えー!なんで!紹介させてよ!だってゆずるは俺の大切な親友だろ!?なんでも真っ先に報告したい」
だから、それが惨たらしい行いなんだって。
どうしてわからないかな。そして女友達にいちいち紹介される彼女の身にもなってみろ。
憂鬱になりながら撒こうとする私に、しぶとく優弥はついてくる。
「優弥、次中国語でしょ?早く行けば?」
「うーん。じゃ、17時にいつものカフェ集合ね」
「いかない」
眉間に皺を寄せる私に向かって、両手で手を振る優弥。
柴犬、ハムスター、プレーリードッグ、ウォンバッド、歩き出したばかりの赤ちゃん。
頭の中で必死に思いつく限りの愛らしい生物を浮かべた。しかし束になってかかっても優弥の威力には勝てず、膝から崩れ落ちそうになる。
……いやー、行っちゃうんだろうなぁー。
白目を剥きそうになりながら、彼に背を向け再び歩き出した。
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