ひと月早いバレンタイン

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____「ゆずると二人で出かけられるなんて、夢みたいだ」  次の日、シバを誘って都内の遊園地へ出掛けた。  もちろんリリスちゃんも了承済みだ。  ……なんせ、最後の思い出作りの為だから。 「すげー!オロバス(馬の姿の悪魔)がたくさん走ってる!」  シバは初めて来た幼い子供のような瞳で、嬉しそうにメリーゴーランドを眺める。 「乗ろうか」  そう声をかけると、シバは満面の笑みで笑った。  この天真爛漫な笑顔に、最初は戸惑うばかりだったのに。  いつの間にか、誰よりも心を癒してくれる存在になっていた。 「ゆずる」  優しい顔をした白馬に乗り上がる時、そっと手を差しのべてくれるシバ。  金色の髪と七色の瞳も相まって、本当に王子みたいだ。  不覚にもドキッとしてしまう私の後ろに、彼は意気揚々と乗り込んだ。 「シバ、他の馬に乗ってよ!」 「なんで。一緒に乗った方が楽しいぞー!」  周囲にたくさん空いている馬が待機しているのに、敢えて二人乗りする私達を、スタッフのお兄さんや子供達が笑った。 「うわー!結構速いなぁ!」 「うん……」  顔が熱い。シバと密着している背中も熱い。  思えばこうやって、男の子と二人で遊園地に来たことも初めてだ。  優弥とだって、来たことなかったのに。  流れる景色を眺めながら考える。  例えばもし、優弥が事故に遭わずにシバとも出会わなかったら、私は優弥とこうして遊園地に来る未来もあったんだろうか。  その時の私は、幸せを感じているんだろうか。  わからない。  ただ一つだけわかったのは、私のような人間は、もう恋をする資格なんてないということだ。 「ゆずる、荷物持つ」  結構な重量のリュックサックを、軽々と片手で持ち上げるシバ。  側で走っていた子供が転ぶと心底心配し、落とし物は率先して拾うシバ。  本当に、悪魔の要素がひとつもない。  思わずくすっと笑ってしまう私の頭を、彼は優しく撫でた。  神様らしくもない。  ただただ素敵な、一人の男の子だった。
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