ひと月早いバレンタイン

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「シバ、お弁当作ってきた」  芝生にレジャーシートを広げて、おにぎりやらサンドイッチやらを並べると、シバは歓喜の声を上げてこちらに駆け寄った。  時折吹く風は冷たかったけれど、陽だまりの下は冬でも暖かい。  二人並んで食べるおにぎりは美味しかった。 「美味い!」  うどんもそうだけど、シバは家に来てから、何を食べても美味しそうな顔をする。 「魔界では何を食べてたの?」 「うーん、そうだなぁ。○○○の丸焼きとか、○○○○の」 「ごめん、やっぱりその話はいいや」  そろそろ、リュックの中に潜む小さな袋をいつ出そうかソワソワしていた。  渡してしまったら、本当にもうお別れが来てしまう気がして。 「やっぱりゆずるが作ったものが一番美味いな!俺、あの時失敬した、チョコの味が忘れられなくて」  ……今しかない。 「……じゃあ、もう一度受け取ってくれる?」  震えた手で差し出した、黄色いリボンがかけられた透明のラッピングバッグ。  シバはきょとんとした顔で、それを受け取った。 「……シバ、私は賭けに負けたよ。優弥への恋を貫けなかった」 「ゆずる……?」  そっと袋を開け、トリュフを一つ取り出したシバの目から、みるみる涙が滲み出す。  これは正真正銘、シバだけの為に作ったトリュフだ。 「私、シバのことがホントに好きになっちゃった。だから賭けは、あなたの勝ち」  リリスちゃんに頼まれて、説得する為だった筈なのに。  途中から、これは嘘なのか、本心から出た言葉なのか、私にもわからなくなっていた。  目からは止めどなく涙が溢れ、自分ではどうすることもできない。  声が震えて、喉が詰まって、思うように伝えられない。 「だけどシバは、……ルシファーは悪魔だから、この恋は諦める」  シバも両目一杯に涙を溜めながら、真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。  その七色の美しい瞳に、一瞬でも映れたこと、一生忘れないから。  
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