131人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふわーぁ」
あれほど、布団の中で空想しても冴えてしまった体は
眠れなかった。
眠気を覚ます方法をいくつか試しても、効果があるのはその場限りで…
これから夜が深まるのに、意識を保っていられるのか
このまま、バックヤードで寝落ちしてしまいそうだ。
「あれ?洗剤が…ない」
シンク棚に、食器用洗剤のストックを入念に探すが見当たらない。
(これは、眠気を覚ますいいチャンスかも)
眠気でぼんやりしている頭をフル回転させる為に、徒歩一分ほどの場所にあるセレブ均一に向かった。
(すぐに着くでしょ)
眠気覚ましに、ひょいっと外出したのはいいものの
東京はたくさんのテナントビルが立ち並んでいて、似たような店も沢山あってわかりづらい。
「地図には割と自信ある方だったのにな」
歩いて、探し回っている内に通行人とぶつかった。
「すっすみません」
「おい!ババア!!」
目の前には、厚底のローファーを履いて派手な化粧をした年端もいかない少女達が立っていた。
「何もババアって」
「うるせー口答えすんなっての!」
「きゃ!」
「キャハハ!愛莉やりすぎ」
愛莉は、桃花を強く突き飛ばした。
周りは引き止める所かスマホを片手に一連の騒動を動画撮影していた。
「最高の撮れ高じゃね?ありがとうオバサン」
不良グループは、その場を立ち去ろうとした。
「おい、クソガキ!」
後ろから、見慣れた長身の影と低い声がした。
「あ?てめぇ誰だよ?話しかけんな!クソジジイ!!」
愛莉は、メリケンサックを装着した右拳で伊織に殴りかかろうとした。
「危ない!!避けて!」
「ふっ!遅いな…girl」
伊織は、軽やかな身のこなしで、拳を避けた。
「!?」
「まだまだだな、Jr.」
「ぎゃあっ!!」
未熟な身体が、低木の生垣に投げ出された。
「明日から公文に行け、勉強しろ。わかったか?クソガキ!」
程なくして、警察によって少女達は補導された。
二人きりの深夜の帰り道。
「お前は、なぜこんな時間に一人で出歩いているのだ?」
「いやぁ、実は洗剤が無くなって…目を覚ます為に外に出るのもいいかなって」
伊織は、深いため息をついた。
「些細な事で、田舎娘め!しばらく反省しろ!!」
「あ!痛!!」
桃花は、頭に軽くゲンコツを食らった。
「もし、あの時俺が助けに来なかったらどうなっていた事やら…どんどんつけ込まれて。恫喝、暴行、強奪、違法薬物だってあり得たのだぞ!!」
「それもそうですね…」
本当にあの頃、助けが来なければどんな目に遭っていたか。
最初のコメントを投稿しよう!