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アルバイトと東京と好きな人と
「走らなきゃ!!」
季節柄、まだ夜が開けない、早朝 五時四十分
遅刻寸前だ!!
寝坊したので急いで髪を梳かして、服に着替えて、荷物を整える。
急足でホテルを出て、何とかキャッスル影山に到着。
「おはようございます、私は今日からティーナさんの教育係を努めます…ルイーズと申します」
黒い長い髪を一つに纏めたシニヨンヘアー、温厚そうな優しい顔立ちに、穏やかな声色。
教育係の人が優しそうな人で良かった…とそっと胸を撫で下ろした。
「よろしくお願いします」
「では…ドレス室へご案内いたします。」
「はい」
頭を下げて、差し出された制服を持って、ドレス室と言う名の更衣室へ向かった。
「こちらになります…ロッカーは四番をお使い下さい…ではお着替えが終わりましたら…お声かけお願いいたします…一旦失礼します。」
「本当に豪華な更衣室だなぁ…」
床と壁はシックな木材の作りで、上着を掛けるワードローブや身だしなみや化粧を整えるドレッサー台、シャワーまでも完備されていた。
「よし、これで準備万端ね…」
制服は、ロング丈でコバルトカラーのエプロンドレス、シンプルなレースがガーリーで可愛らしい。
「やだ…素敵」
姿鏡を見て、うっとりしている時間はない。
早く、ルイーズさんの所に向かわなければ
「ティーナ!!」
廊下を小走りしていると思わぬ相手と出くわした。
寝起きでボサボサ頭の伊織だった。
「何ですか?」
「ギリギリじゃないか?もしかして遅刻したな?」
「してません…確かに寝坊はしましたけど…
遅刻ではないです」
「ふむ…そうか…頑張れよ田舎娘!!」
ポンと両肩を掴む、いつもの見下す様な言葉遣いは気に入らないが。
彼なりの励ましなのかも知れない。
-----もしかして、これがツンデレって奴?
「ただ今、戻りました…」
「では、ティーナこれから今日仕事をしてもらう
厩舎に行きます」
「はい」
手入れの施された緑豊かな草木と広い庭園の中に
金色の大きな建物が見えた。
「ここが馬達が生活してる厩舎になるわねえっとティーナにはこれから馬の餌やりを主にお願いするわね」
名前、注意点、餌の場所、桶について説明を聞いて
いざ、作業へ向かう。
「この白馬の子はエクスカリバーって名前の子何だけどこの子から順に乾草って言う餌をあげて…
私は、水桶に飲み水を補充するから
また何かわからない事があれば声をかけてね」
「はい」
日本一のセレブなだけあって、影山家御用達の
馬は皆、毛並みも良し、色艶もよし。
皆、一頭で何千万もする万能なサラブレッドだ。
ルイーズさんに頼まれた仕事をひとしきり、終えた。
「ふぅー疲れたー」
食堂にて、小休憩を取る。
テーブルに一杯並べられた紅茶やスポーツドリンクが入ったポットと、一口でつまめる程にカットされたフルーツや集中力を高めるラムネなどの甘味も置かれていた。
「実は、この屋敷では全員源氏名で呼び合ってるのよ…御坊ちゃまの嗜好か何かわからないけれど… 後、私の本名は鶴屋 桜子って言うの…よろしくね」
「ああ…そう言う事だったのですねこちらこそ宜しくお願いします…」
昨日の歓迎会で突然舞台上で“ティーナ”と
聞き覚えの無い名前を叫ばれたのはこういう事だったのか…完全に、伊織の趣味嗜好ではないか。
もしかして、外国かぶれだったのか…
「まぁ、元からあの方もイギリスでの生活の方が長かったって聞くわね…」
教育係のルイーズと話に花を咲かせていると
備え付けのスピーカーからチャイムの音が鳴る。
「あら、もうお出ましになられる時間だわ」
「?」
「いつもこのBGMが鳴る時は伊織様がお外へ出られる時なのよ…お見送りに行きましょう」
「はい」
豪華なエントランスには、びっしりとバトラーとメイドが一列に並ぶ。
「では、大学に行ってくる…屋敷に何かあれば至急、連絡をくれ」
そこには、長身で大柄、強面の専属SPを二人従えて、特製のホワイトカラーのダッフルコートにお得意様のチャネルのサングラスを掛けた伊織が居た。
性格はアレだが見た目はとても王子そのもので
つい、見惚れてしまう自分が居る。
(そんな彼の見た目に騙された私も私だけど)
「かしこまりました…行ってらっしゃいませ御坊ちゃま」
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