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ホテルに戻った桃花は早速、歓迎会で貰った名刺を片手に響に電話をした。
「あの私、朝比奈 桃花です」
「知ってる。」
「あの……今度ですね……金曜日空いてます」
「いいぜ! 俺も空いてる……あんた都合いいのどっちだ?」
「え?」
「待ち合わせだよ……まぁ、あれか、あんた今ホテル暮らしだもんな……東京ホテルkグランド前で十時待ち合わせな」
「はい!!」
電話が切れた、金曜日が楽しみだ。
もしかしたら、東京に来て人生初めての彼氏が出来るかも。
そう思うと、楽しみで胸がワクワクしてたまらない。
「そういえば、服……」
明日も、アルバイトが午前までだから午後は原宿でデート服を買おうかな。
(えへへ楽しみだなぁ)
蕩けたような笑顔で終始上の空の桃花。
「で……あるからにして……おい! ティーナ! 聞いてるのか!!」
朝一の伊織主催の恒例のミーティングも全く耳に入らず。
「あわわわ!!」
「何ボケーっとしてるんだ全く……もうお眠の時間じゃないぞ!!」
周囲は、そんな桃花を前にクスクスと笑う。
恥ずかしい、もう夢の時間じゃないのにアルバイト二日目でなんて失態を犯したのだろうと
桃花は、恥ずかしさのあまり冷や汗をかいた。
「今日ずっと上の空ね……何考えているのかわからないけれど今は、仕事の時間よ……切り替えて、もう子供じゃないのだから」
「はい……」
ピシャリと注意された。
彼女の名前はカレン、黒髪のストレートボブにキリッとした凛々しい顔立ちの美人。
シワ一つないメイド服から隙がひとつもない、仕事が出来るキャリアウーマンと言っても過言ではないだろう。
「ゴミが落ちてるわ……ビニール? 誰なのかしら全く」
「厳しそう……」
「何か言った? 今日のあなたの教育係は私よ」
「はい!」
昨日の温厚なルイーズとは違い、今日は随分と厳しい人が教育係で桃花の心はキリキリと張り詰めていた。
(緊張するな)
「ティーナ、今日は伊織様の部屋の掃除よ
案内するわ」
階段を上がって、伊織の部屋を案内された。
「ここが伊織さんの部屋か……どんな部屋なんだろう」
カレンが伊織の部屋の扉を開くと、とんでもない光景が目に写った。
なんと部屋中、本や書類が散乱して香水や化粧水の空き瓶があちらこちらに転がっている。
大柄でアンティークなタンスからは服がダラリとはみ出していた。
「汚い!! ありえない……嘘でしょ」
驚愕しすぎて、思わず声を出してしまった。
屋敷暮らしとは思えない汚部屋が展開されていた。
「ちょっと……これは仕事よ口を慎みなさい」
「はい」
またまた注意された、もう恥ずかしい。
渡された紙マスクを付けて、窓を開けて、部屋中に散乱する物やゴミを片付ける。
そして最後に広い部屋の床に掃除機をかけて
清掃の業務は終了。
「ゴミよし、汚れよし、洗濯物良しね……ティーナそのカゴに積んである洋服は全部クリーニングルームに持っていって場所は三階のバスルームの隣よ」
「はい」
桃花は、服とベッドのシーツが入った茶色の籠を持ってカレンに指示されたクリーニングルームに向かう。
「ふぅ……重たいな」
洗濯物を全て、洗濯機に放り込んで
ひとまず仕事は終了。
「うっトイレ行きたくなったな」
(急がなきゃ!)
バスルームに通ずる扉を開いてトイレに駆け込んだと思いきや。
「どうした……ティーナ?」
「え?」
目の前に、お風呂上がりであろう全裸の伊織が居た
「どうしたんだ? 何か用か? と聞いているんだ……」
「え? きゃあああああああああああああ全裸!! いやぁ!! きゃああああああああ」
尿意も忘れ、我も忘れて思い切り叫んだ。
なんて破廉恥な事をしでかしてしまったのだろう。
そして、見られている本人も何気顔をして聞くなと恥ずかしさのあまり桃花は、顔を手で覆った。
「ちっちがいます!! 失礼しました!!」
急いで、バスルームを出た。
「やばい……何て物を……しかも入ったの男湯だったし……最悪だ」
よく見ると、扉には男湯につき注意の表札がかけられていた。
取り返しのつかない事をしてしまったと桃花はかなり後悔した、また馬鹿にされる。
田舎娘から変態娘になってしまう。
「最悪だー」
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