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湯気が沸くカップがテーブルに1つ。その横をゆらゆらと彷徨う左手は、持ち手を見つけられずカップの胴体を鷲掴んだ。
「飲み物を飲むときくらい本から目を話せばいいのに」
何かに熱中している時は周りを気に留めない彼のことだ。私のこの呟きも聞こえていないだろう。
左手はカップを掴んだまま、右手で器用に本のページをめくる。横着だとも言える仕草でさえ、彼の細く長い指が行えば妖艶に見えるから不思議だ。
特段、彼の指が綺麗なわけではない。人差し指はささくれだっているし、爪だって深爪気味。よく見れば不自然に曲がっていたりする。
それでも私にとっては愛おしく、つい、うっかり動きを目で追ってしまうほど魅力的だった。
ゆっくりと口元に近づいたそれを傾ける。
カップに沿った他の指に抗うように、ピンと立てられた小指を見て私の広角が上がる。ずいぶん主張が激しい指だこと。
「熱っ……あれ?コーヒーじゃない」
ぴくりと手元が跳ねたかと思うと、彼はやっと本から目を離した。
「私、コーヒーきれてたから紅茶でいいか聞いたよ。おーって返事したじゃない。生返事だったけど」
「そうだった?」
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