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「また人の話聞いてなかったでしょう」
えー、なんて言いながら彼は私の目を見つめる。かと思うと何かに気がついた顔をし、へにゃあと柔らかく微笑んだ。
「君の声があまりにもスッと頭の中に入ってくるから小説のセリフかと思った」
何を馬鹿なことを。そのセリフのほうがよっぽど本に出てきそうよ。
私はいつもの事だからと言葉を飲み、代わりにため息をついた。
「コーヒーがいいなら自販機で買ってくるよ。他にも何かほしいならコンビニ行ってくる」
そうは言いつつも正直外へは出たくなかった。
今日は嵐になる予報で、空は既に分厚い雲で覆われているのだ。
「んーん。今日は2人でゆっくり過ごす日だから外に出ちゃ駄目だよ」
半分まで中身を減らしたカップはカタリと音を立てテーブルに置かれる。空いた左手は本の元へ向かい定位置に収まった。
ぱち。
ぱちぱち。
雨粒が窓を叩き嵐の始まりを告げる。
カサッ。
彼の指がまたページをめくる。
雨の続く6月。
本に夢中な彼。
することもなくスマホを触る私。
少しは構ってよと不服に思うこともあるが、彼と過ごす穏やかな日常がどうしたって嫌いになれないのだ。
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