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第二話
「き、緊張しちゃった……」先ほどアルフィと名乗った少女は、路地裏に身を隠して深呼吸する。その長く赤い髪はゆっくりと短いショートカットに、胸とお尻も少し小さくなり窮屈そうであった制服が丁度良いサイズになった。
「高城くんと話をしちゃった……」彼女は頬を真っ赤に染めてはにかんでいる。どうやら、この少女は祐介に少なからず好意を抱いている様子であった。ぶりっ子のように両手で軽く拳を作るとニヤニヤと笑っている。暗い路地裏で一人笑っている少女・・・・・・・・、さすがにどこかおかしいのではないかと心配する光景であった。
「あれ・・・・・・・・?」何か手持無沙汰な感じがする。鞄が無い。そうだ、目の前でトラックの前に飛び込んでいった祐介に驚いて、自分の鞄を放り投げて彼を助けに行ってしまったのであった。
「あちゃ・・・・・・・・!」鞄の中には、教科書や簡単な小物、そして少ないがお小遣いも入っていた。彼女は慌てて路地を飛び出して、先ほどの交差点目指して走っていった。
「うーん・・・・・・・・」祐介は、女性物のピンクの鞄を手にしていた。先ほどの交差点の近くに落ちていた物であった。しかし、こんな鞄を道端に落として気が付かない奴がいるのかと不思議に思った。もしかして、先ほどの赤い髪の少女の物かとも考えたが、それはあまりにも彼女に不似合いなものであった。
「あ、あの・・・・・・・・、高城君・・・・・・」唐突に女の子が声を掛けてきたので、祐介は驚く。
「あっ、お前は・・・・・・・・?」祐介はその顔に見覚えがあった。確か、同じクラスの・・・・・・、名前は思い出せなかった。
「あの、あのね・・・・・・・」彼女は顔を真っ赤にしてモジモジしている。
「えーと、何か用?」祐介は言いながらピンクの鞄を肩に掛ける。
「その・・・・・・・・鞄・・・・・・・」彼女は、鞄を指さす。
「えっ、何?」意味が解らなかった。
「その鞄・・・・・・、私の・・・・・・・・」やっと言えたようであった。
「これ、お前の鞄なのか?なんで、あんな道端に落としてたんだ」祐介は呆れた顔をしながら鞄を差し出した。
「えっ、それは・・・・・・・・」彼女は鞄を受け取った。
「まあ、いいや・・・・・・・・、気を点けなよ」鞄を渡すと、祐介は背を向けた。
「あ、あの・・・・・・・、ありがとう・・・・・・・」聞こえるか聞こえない位の小さな声で、お礼を言った。それに答えるように祐介は少し微笑みを返した。
「なんだ・・・・・・・、やっぱりあの子の鞄じゃなかったんだ・・・・・・・」祐介にとって、あの鞄が赤い髪の少女を探す手がかりになるかも知れないと思っていたのだが、当てが外れたという感じであった。彼女のありがとうという言葉に微笑みを返したが、心の中では残念な気持ちが広がっていたのが本音であった。
「また、話しちゃった・・・・・・・」祐介の気持ちと反比例するように少女は、少し飛び上がりたい気持ちであった。そしてピンクの鞄を胸に抱きしめると、ニヤニヤと笑っていた。
「きゃあ!」テンションが上がって、嬉しい悲鳴を上げる少女であった。その目はきっとハート型に見えていた事であろう。
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