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第一話
高城祐介は後悔していた。
あの時、同じクラスの女子からお願いされたからと言って鼻の下を伸ばし、掃除当番を代わらなければ、このような状況には陥らなかった筈であった。そして彼女への、好意によって彼には何の対価ももたらされる事は無かった。むしろそのお陰でこの危険な状況に巻き込まれてしまったのであった。
「畜生!間に合うか!?」祐介は猛烈な勢いで走ってくる大型トラックの前に飛び込む。彼の目の前には赤いランドセルを背負った低学年の小学生らしき少女が交差点の真ん中で固まった状態で顔を引きつらせ、突っ込んでくるトラックを目を見開いて凝視している。周りには、同じ歳位の子供達や、遠くに大人達の姿もあったが誰も反応する事は出来なかったようであった。
信号機は青、トラックが赤信号を無視して交差点に飛び込んできた様子であった。祐介は彼女を助ける為、咄嗟に飛び込んでしまった。ただ、彼女を助ける事が出来るかどうかは解らなかったが、祐介が助からない事は誰の目にも明らかであろう。
激しい衝突音が響き渡る。少女の体を抱きしめながら強く目を瞑った。しかし、体に痛みは感じられなかった。そういえば、死ぬ時は体がアドレナリンを分泌して、苦痛を感じばいと聞いた事があった・・・・・・・、ような気がした。
「全く・・・・・・・、無茶するわね・・・・・・・」唐突に女性の声が聞こえる。もしかして、あの世から天使様が、お迎えにでも来たのかと想いながら、祐介はゆっくりと目を開いた。
「えっ!?」祐介の目に信じられない光景が飛び込んで来た。さきほど自分達目がけて勢いよく突っ込んできたトラックが目の前で停止している。なぜ、このような状況になっているのか祐介は理解不能であった。
「2人とも大丈夫?」また、天使様の声が聞こえる。もう一度、止まっているトラックを確認すると、その正面に声の主が片手で突進してきた車両を押さえている。腰に掛かるくらい長く、そして赤く輝く髪。形の良いお尻の形がスカートの上からも良く解る。振り返った顔は白い肌に大きな目、そして綺麗に整った鼻筋にほんのり赤い唇。それは祐介が未だかつて見た事の無いほどの美少女であった。状況から見て、この少女がトラックを受け止めて止めたように見える。
「え、ええ、俺達は大丈夫・・・・・・・です・・・・・・・・」言いながら小学生の状況を確認する。どうやら彼女も無事なようであった。赤い髪の美少女は、祐介の言葉を聞いてからトラックの運転手を確認する為に運転席を見た。
「あきれた・・・・・・、この運転手、まだ眠っているわ」美少女が覗き込むと、運転手はいびきを掻いて眠っている。シートベルトをしているので怪我には至らなかったようであった。少女は、ため息をつくと祐介の目の前にゆっくりと舞い降りた。
「えっ!?」祐介が戸惑っていると、少女は彼の体をお姫様抱っこのよに抱きかかえると、飛び上がった、彼女の大きな胸の感触が腕に当たり祐介は逆上せそうになった。
「おい!大丈夫か!!」二人が姿を消した後、遅まきながら、近くにいた大人たちが駆けつけてくる。しかし、そこには小学生の姿しかなく、どうしてトラックの前面が破壊されて停止したのかを理解出来た者は誰も居なかった。
「本当に大丈夫?」少女は誰もいない公園の一角に着地すると、祐介の体をゆっくりと地面に下ろした。彼女は、前のめりになりゆっくりと髪をかき上げてから祐介の目と鼻の先に顔を近づけてきた。前に屈んでいる事度大きな胸の谷間が目の前に現れて、祐介は顔を真っ赤に赤らめてゴクリと唾を飲みこんだ。
「お、俺は、大丈夫・・・・・・・です」少し目を逸らしながら返答をする。
「でも、顔が真っ赤よ」彼女は言いながら、右手を祐介の頭に当てた。「うん、熱は無いようね」安心したように彼女は微笑む。
「あ、ありがとう・・・・・・・、君は一体?」よく見るとその少女は、祐介の学校の女子生徒の制服と同じ物を着用していた。しかし、あきらかにサイズは合ってなくて窮屈そうであった。特に、胸とお尻のあたりが・・・・・・・・、祐介はこの少女を知らない。たとえ同じクラスでなくても、こんなに綺麗な、そして赤い髪をした少女なら覚えている筈であった。「君、俺と同じ学校だよね、よかったら、名前を教えてくれないかい?」名前を聞けば、もしかすれば思い出すかも知れないと思った。
「な、名前・・・・・・・・、えーと、名前ねえ・・・・・・・・・」なぜだか彼女はあたふたしているように見えた。
「・・・・・・・・?」
「あ、そうそう、私の名前は・・・・・・」ちらりと何かに目をやった。「アル・・・・・・、そうアルフィよ!」なぜか唐突に思いついたかのような感じであった。
「アルフィ・・・・・・さん、・・・・・・・・、えっ、もしかして外人さん?」確かに彼女の見た目は普通の日本人には見えなかった。よく見ると、瞳にも少し赤色が混じっているように見えた。そして、彼女のその名前を聞いても祐介はピンと来なかった。
「そ、それじゃあ、私、急ぐから!」そう告げて軽くウインクをしてほほ笑むと、とても人間とは思えないジャンプ力を披露し、アルフィは祐介の前から姿を消した。
「えっ!」突然目の前から飛び去っていった少女に、祐介は唖然として見つめるだけであった。彼は気が付かなかったが、その足元には、なぜか三人の音楽ユニットの掲載された古い雑誌が捨てられていた。
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