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「あ、はい。ありがとうございます。それでお届け物というのは…」
寝起きにこんな太陽みたいな人間と話すのはきつい。俺は日陰側の人間だ。陰と陽が交わることは無い。わざわざ住む場所が違うのに交わる必要なんてない。さっさと終わらせて部屋に戻ろう、そして今日はやっぱり休もう。単位は別に問題ないし俺が来ないと寂しい人なんていないのだから別に何の問題もない。
「はい、こちらです!……少し大きな荷物なのでここのチェーンからだと入らないと思うのでチェーンを外していただいてもよろしいですか?」
チェーン越しに話す俺に対してそのイケメン陽キャ配達員(そう呼ぶことにした)は申し訳なさそうにそう尋ねた。明らかにチェーンを付けたままの俺がいけないんだからそんなに申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのに。
しかし…俺は大きい荷物なんて頼んだだろうか。
記憶を辿りながらもとりあえず大きな荷物をずっと持たせておくのは申し訳ないと思い、俺はチェーンを外した。
チェーンを外したらそのイケメン陽キャ配達員は少しほっとしたような顔で再び俺に眩しいほどの笑顔を向けた。普通の女子ならこれで落ちるのだろうが陰キャ男子の俺にとっては眩しすぎて見ていられるものじゃない。陰と陽は混ぜてはいけないのだ。
「 開けてくれてありがとうございます!
あの、これ…持てますか?」
配達員はドアの隙間から見た俺の身体を見てはそう言った。俺が弱そうだからか…それにしても俺はそんなに大きい荷物頼んだ記憶が無い。一体なんだろうか。
「あ〜…そこら辺置いといて大丈夫です。
ドアの前とか」
「わかりました。あ、サインお願いします」
「あ、はい…」
俺は玄関に置いておいたボールペンを手に取って、配達員が渡してきたサイン用の紙を受け取った。
そして、サインを書き、紙を渡そうとした。
「…はい、どうぞ……っ!?」
何が起きたのか意味がわからなかった。
配達員が俺の手を引いて何かと思った時にはもう遅かった。ガチャ、と鍵が閉まる音が聞こえた。
俺は配達員に玄関の床に押し倒されていた。
配達員はにこり、と気味の悪い笑みを浮かべて俺に耳打ちしてきた。
「…あの、夏目(なつめ)くんですよね?」
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