鐘の音がなる。

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鐘の音がなる。  鐘の音がなる。  鐘がなると、いつも同じ夢を見る。 「いい?かくれんぼだから鐘の音がなったら、ママの事探しにきてね?この町の何処かにいるから」 「でもママ何も見えないよ」 「大丈夫、あなたの目ちゃんと返してあげるから、動けるようになったら取りにおいで?」    私の最後の思い出の後、黒い姿の女の子がママを探して彷徨う夢。  鐘の音がなる。 「いつも目ばかり抉って行くんだから、この様子じゃ内蔵も傷んでいそう」  朝日がのぼる前の薄暗い中、倒れている女性の体を漁り、まだ使えそうな部分を保冷バックに詰める。  この街は面白い、幽霊が人を殺して回るんだもの。     鐘の音がなる。  この街は、夜中の零時になると、街の神社から鐘がなる。  鐘がなると、黒い姿の女の子が女性を追いかけ回すと、噂があった。  その噂を確かめる為に私は、遠くからこの街を訪れていた。  元々目が見えなかった私に、ある日、目をくれた人がいた。  二十年も前のことで当時十歳だった私は、生まれつき目が悪く、年々視力が落ちていき、十歳になる時には見えなくなった。  何も見えずに世界に絶望している時、一人の女性が目をくれた。  それから私は、目が見えるようになった。以前よりも、かなり良くなって。  良くなった結果、色々なものが見える。  普通の人が見えないものまでも。  最初は怖かったが、今はこの目を使い除霊の仕事をしている。  今日、この街に来たのも、除霊の依頼があったからだ。 「さてと、出ると噂の時間は零時、それまで昼寝でもしてるか」  この街に来てから何だか目がすごく熱く、引っ張られるような、軽い痛みがある。  長旅のせいだと思い、依頼者の安藤さんが貸してくれた部屋で休息を取らせてもらった。  鐘の音がなる。  今日も同じ夢を見る。  小さな女の子が女性を追いかける夢。 「ウフフ、キャハハ」  何だか今日は、黒い女の子の機嫌がすごく良い、いつもは歌ったりなどせずひたすらに追いかけてるだけなのに。不思議と私まで楽しくなってくる。 「やめて、来ないで」  女性が必死に逃げているが、それを楽しそうに追いかける。どこまでも。  道路の真ん中で、体力付き、倒れ込んだ女性に黒い影が笑いながら迫る。 「私のお目め、みぃ〜つけた」 「やめて、お願い助けて」  女性の助け声などまるで聞こえない、それどころか嘲笑うかのように、再び笑い声を上げる。  手に持っていた小ぶりの包丁を、女性の目に容赦なく突たてそれを抉り出す。  抉りとった両方の目を、嬉しそうに自分の目のあった場所に嵌め込んだ。 「違う、これじゃない」  途端、嵌めた目を取り出し、さっきまでのご機嫌な様子とはうって変わって、怒りに狂い出した。 「違う、違う、違う!何で違うの?私の目じゃない!だって私の目があるって感じたのに何で違うの?」 「やめ、てお、ねがい、痛い……」    怒り狂った女の子に、女性の悲痛な声など届かず、身体のあちこちを刺し続けた。  女性から力が抜けてもやめることはなく、何度も、何度も、違うと発しながら刺し続けるのを眺めていた。  ある家の窓から人が覗いているのが見えて、視線をその窓に移した時、 「あ、みぃ〜つけた」  黒い女の子も同じタイミングで見たのか、くるんと首を百八十度曲げ、ある民家の部屋を眺め、にんまりと笑った。  鐘の音で目が覚める。   「本当に零時でなるんだ」     スマホで時間を確認すると、時刻はちょうど零時。   「さてと、ここからどうしようか」  とりあえず外に出て、様子を見てみようかと立とうとした時外から小さい女の子の笑い声が聞こえた。  恐る恐る部屋のカーテンを開けると、そこには二十代くらいの女性と、小学生くらいの小さな女の子がいた。  笑い声をあげていたのは、小さな女の子の方だ。  女の子は女性に追いつくと、顔目掛けて何かをしていた。  すると、急に怒りだし、女性にずっと手を振りかざし始めた。  何をしているのか気になり、窓から顔を出した瞬間、女の子の手がピタリと止まり首だけがぐるんと、こちらを向きニターと笑った気がした。  背中に物凄い寒気が走り、慌ててカーテンを閉めた。 「私のお目め♪お目め♪」  陽気に歌いながら、ゆっくりと歩いてくる。  声が段々近づいてくると、目がどんどん熱くなり、痛みも増していく。  なのに、目は閉じることは愚か、瞬きすら許してくれず、私の意思とは反して、声のする方にずっと向いてしまう。 「ママ、私のお目め返して?」  至近距離で声が聞こえた時には、カーテン越しに女の子の影がくっきり見え、カーテンの隙間から中を覗こうとしている。 「ママ、何で隠れてるのー?」 「あなたの目なんて知らないし、あなたのママでもないから、どこかに行って」 「知らないって何?ママが私の目を持っているんじゃん!」  ガンガンガンと窓ガラスを殴りつけながら、返せ!返せ!とガラスを割る勢いで叩き付けてくる。 「やめて、お願い、私、何も知らないの。」 「さっきからすごい音がしてるけど、何かあったの?」  恐怖と痛みでどうにかなってしまいそうな時だった。  安藤さんが、窓ガラスが叩かれる音を聞きつけ、様子を見に来てくれた。 「あ、あの……」  部屋の明かりを点けるてくれると、目の痛みが引いていき、さっきまでカーテンの向こう側にいた女の子も居なくなっていた。 「もしかして今居たの?」  恐怖のあまり声を発せず涙目になりながら、只ひたすらにコクコクと頷く。 「そう、なんだ」  小さく息を飲み、緊張を露にして周囲を警戒する安藤さんに、何とか「もういないです」と声を振り絞った。 「でも、外で女性が……」  カーテンを静かに開けて、外を確認する安藤さん。 「ほ、本当だ、誰か倒れてる」 「ど、どうしましょう」 「今日は危ないから、朝になったら見に行きましょう」  今日はもう休みましょうと、同じ布団に入ってくれたけど、その日は、眠ることができなかった。  いつまた来るかわからない恐怖と、カーテンの隙間から見えた女の子の真っ暗な目が頭から離れず、こびり付いていた。  朝になり、昨夜女性の倒れていた所に行くと、両方の目が抉り取られて、滅多刺しにされ亡くなっていた。 「あ〜あこんなにぐちゃぐちゃにして……使える部分残っていないんじゃない?」  安藤さんが、何かを小声で言っていたが上手く聞き取れなかった。 「昨日見た幽霊の子、私の目を返してって、言ってました」  一晩経過して昨日の夜より大分落ち着いて来た為、何があったのか、話すことができた。 「目を?」 「はい、何でかわかりませんが」 「目を返してじゃと?」  たまたま隣に居た、お寺の住職のお爺さんが、食い気味に聞いてきた。 「はい、一瞬でしたがその子を見たんですけど、小さな女の子で両目がなかったんです。」 「小さな女の子が目じゃと?そんな、まさかな?」 「何か知っているのですか?」 「まだ儂が五十代の頃だから約二十年前ぐらいか。あの日は天気も良く、いつも通り朝起きて、落ち葉を集めている時じゃった。木にもたれ掛かる女の子がおって、こんな朝早くにどうしたんじゃと、声をかけに行ったんじゃが、反応がなくて、寝ているのかと顔を覗き込んだら、両目がくり抜かれた状態で亡くなっていたんじゃ」 「じゃあ、昨日私が見たのも幽霊で、幽霊が人を殺したと言う事ですか?」 「儂は見ていないから、何とも言えないが、おそらくはそうだろう」 「でも、幽霊に人を直接殺すことができるなんて、聞いたことがありませんよ」 「最近は、聞くことも少なくなったんじゃが、ここは、かつて悪魔が住む村と呼ばれていたらしいんじゃ、ある場所で、殺されたものが実態を持って生者に干渉する事ができる。その様がまるで悪魔のようだから、そう呼ばれるようになったみたいじゃ。そのある場所までは、わからぬがのう」  生きている人間に干渉できる幽霊、聞いたことがなかった。 「その、幽霊はどうしたら成仏するんですか?」 「目的を叶えたらと、言われておる。」    この場合、目的は目を取り返すこと? 「じゃあ昨日見た子は、目を手に入れたら消えるってことですか?」 「多分そうだと思うが、その目が何処にあるか、儂にはわからん」  何となくだけど、その目が今どこにあるのか気づいてしまった。  その目は多分今、私の所にある。  私がここにいると、今夜も必ず現れる。  この女性みたいに目をくり抜かれて、そして……殺される。  逃げなきゃ、早く、ここじゃない遠くに。何としてでも。 「どうしたの?大丈夫?」  急に慌てた様子になった私の顔を、心配そうに覗き込んでくる安藤さん。  その安藤さんの両目が真っ暗で何もなかった。 「ヒィ!」  慌てて後ろに倒れ込む私を住職のおじさんが支えてくれる。 「あ、ありが、……え?」  その住職さんも目がなかった。 「い、いや来ないで、こっちにやめて……」  だめだ、もうここはやばい、早く逃げなきゃ。恐怖で力の入らない足で立ち上がり、ふらふらと走り出すと親子とぶつかりそうになり尻餅をついた。 「おねいちゃん大丈夫?」  心配そうに手を差し伸べてくれたのは、昨日見た、目のない女の子だった。 「いやーーー!」  気を失った除霊師の子を、布団に寝かせ、昨夜亡くなった女性の遺体の元へと戻る。  住職さんには、こちらで全部やるのでと伝えてある。 「さてと、内蔵に傷が入ってないといいんだけど」  悪魔の住む村、幽霊が人に干渉できる事。  つまり幽霊が人を殺すこともできるのではないかと考えた。  今から三十年前、当時お金に困っていた私は、幽霊に人を殺してもらって、その臓器を売る事を思い付き移住した。  だが、それは昔の話で、今はそんな事は起きていなかった。  どうしよう、自分で殺してをずっと繰り返してもいいけど、歳を重ねるごとに、大変になって行くし。 「そっか、いないなら、作ればいいんだ」  生きている人を、この街の様々な場所で殺してを繰り返した。  だけど、幽霊となって現れてくれる人はいなかった。  そんな事をもう三十年以上前から、行っていたせいか、いつしかこの街はまた、悪魔が住む街と呼ばれるようになっていた。  この日のターゲットは、教会に孤児として預けられていた女の子。  教会のシスターに、私がこの子の里親になって育てるからと言い、引き取らせてもらった。 「今日からママになるの?」 「そう、ママよ」 「ママ!私ね、まりって言うの!」 「そう、まりちゃんて言うのね、いいお名前だね」 「うん!」  まりは嬉しそうに、ニンマリと笑った。 「ママのお家帰ろう!」 「そうね、でもその前に行きたいところがあるの、だからついて来てくれる?」  「うん!」と元気よく返事をしたまりの手を取り、神社に向かう。 「ここに何のようなの?」 「今からまりちゃんとママが、これから仲良く過ごせる様におまじないをかけるの」 「おまじない?」 「そうだよ、ちょっとチックとするけど、目を閉じて我慢しててね」  言われた通り目を閉じるまりに、容赦なく麻酔を打ち込む。  痛い、と小さく悲鳴を上げ、泣いていたが、しばらくすると、麻酔の効果で眠っていった。  まりが寝たのを確認し、鞄に閉まっていた小ぶりの包丁を取り出して、瞼を手で引っ張り上げ、包丁で丁寧に目を抉り取っていった。 「目だけでいっか」  いつも通り、内蔵や売れるものを全て取らなかったのかは、私もわからなかった。  只の気まぐれだったかもしれないが、もうそんな昔のことは忘れてしまった。 「ん?ママ?」  目を真空パックに収め、この場を立ち去ろうとした時、まりが目を覚ました。  こんなに早く目を覚ますとは思ってもいなかった。麻酔の量を減らしすぎたかな? 「起きたのね、まり」 「うん、でも何も見えなくて、それに足もうまく動かないよ」  何も見えなくなり麻酔の影響で身体が思うように動かない様子に、戸惑いを見せるまりに、一つの提案をする。 「そうだ!今からかくれんぼしよう!」 「かくれんぼ?」 「いい?かくれんぼだから鐘の音がなったらママの事探しにきてね?この町の何処かにいるから」 「でもママ何も見えないよ」 「大丈夫あなたの目ちゃんと返してあげるから、動けるようになったら取りにおいで?」 「わかった!」  元気よく返事をしたまりの胸に包丁を突き刺し、この場から立ち去る。  鐘の音がなる。  布団を飛ばす程の勢いで起き上がる。 「ゆ、夢?」  はあ、はあと荒い息を吐きながら周りを見渡す。  そこは外ではなく、安藤さんが貸してくれた部屋だった。  身体全体が、冷や汗でぐっしょりしているのを感じる、恐怖に未だ震える手を握りしめる。 「ここはだめ、早く出ないと」  震える手で、荷物を鞄に詰め部屋の扉を開けると。 「ママ、み〜つけた」  目のない女の子が、包丁を携え満面の笑みで立って居た。  女の子だと認識した途端、急激に目が痛くなり、その場に蹲ってしまう。 「な、何で?」 「ママが取り返しにおいでって言ったんだよー?だからね毎日ママを探してたの」  楽しそうに話すのがより恐怖を与えてくる。 「し、知らない、あなたの目なんて」 「もう、逃げないでよママ!」  腰を抜かし這いつくばって、逃げようとする私の腕を持ってる包丁で切り落とそうと突き立てられる。  女の子の小さな体では大人の腕を切り落とす力がなく、腕に深々と刺さる。 「ぁっ〜」  刺さった包丁を、一生懸命抜こうとぐりぐり引っ張っられて痛みに気を失いそうになる。 「私のお目め♪」  包丁を抜くのを諦めたのか私の目に小さな手を近づけてくる。 「お願い、やめて」  そんな声は聞こえていないのか、容赦なく私の目を抉り取ってくる。  痛みと恐怖で意識を失う。  抉り取った目を取り付けて、目の前にいるママを見る。 「あれ?ママじゃない、何で?」  でもそれは、ママじゃなかった。  また、ママじゃない、私のママは何処に居るの?  ママ、まだかくれんぼなの? 「そっかぁじゃあママの事見つけないと!」  でも、ママの顔もう覚えてないや、けどママなら私の事覚えてくれてるよね!  もし、ママ以外の人に会ったら皆殺しちゃえばいい!そしたら早くママに会える! 「あ〜あ、またぐちゃぐちゃにしちゃって……でもまあいっか」  もうお金に困っていないし、それにマリが殺したこの遺体を眺める時間が今は至福の時になっていた。 「さあ今夜も私を探して沢山の人を殺して。そしてもっと沢山の遺体を見せてちょうだい」      鐘の音がなる。  鐘がなると同じ夢を見る。 「ママ〜何処にいるの?」  ママを探している夢。
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