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夏のいたずら
窓を開けると、新たな行き場を見つけた暖かい風が教室に押し寄せてくる。
その風に乗って、外から蝉の鳴き声が聞こえてきた。
暖かい風と蝉の鳴き声を受けながら、夏の訪れを感じていると、横から声がかけられる。
「黄昏るにはまだ早くない?」
声をかけてきたのは三ヶ月前から付き合っている、彼女の美優みゆであった。
美優は前の席に座り、椅子と体をこちらに向けて、からかうような口調で言ってくる。
確かにまだお昼前なので、黄昏るには早いとおれも思うが、黄昏れていた訳ではないので、美優の問いかけに否定で返す。
「いや、夏が来たなと思ってただけだよ」
確かに、最近暑いから嫌になっちゃうよねーと俺の言葉に同意を示しながら、スクールブラウスをパタパタさせて扇ぐ仕草をする。
扇ぐたびに、ブラウスが持ち上がるのに、ドキっとして視線を美優から外へとまた移してしまっていた。
「そういえば、今日この後暇?」
ふと思い出したように、扇ぐのを止めて、おれの顔を覗き込みながら聞いてくる。
「予定は何もないけど」
今日は七月の下旬、学校は終業式だけ行い、明日から夏休みだった。
夏休みと言っても、いつも特段予定がないのである。夏休み前日の今日もいつも通り予定は何もなかった。
「それじゃあ、駅前に新しいパンケーキのお店出来たみたいだから行こうよ!」
美優は新しくオープンしたパンケーキ屋に行こうと提案してくれた。
特に断る理由もなかったし、一緒に帰りたかった為、その提案に了承した。
それからパンケーキを食べ、二人で駅前をぷらぷらと散歩をし、今は紅白鉄塔下にあるベンチに腰掛けて陽が沈むのを眺めていた。
「明日から夏休みだね」
「そうだね」
「ねぇ夏休みはどうしよっか」
美優が嬉しそうに夏休みの予定を決めるために、スマートフォンで花火のスポットについて調べ始めた。
「ねぇ!ここなんかどう?」
良い所を見つけたのか、嬉しそうに花火特集ページを見せてくれる。
その姿が無邪気な子供のように見えて、改めて可愛いと感じた。
「そこなら家からも近いし、良いと思う!」
「本当!?じゃあここ行こうね!」
「うん!」
返事を聞いて満足気に頷くと、視線をスマートフォンから俺に向けた。
「私達付き合って色々な所にお出かけしたりしたけど、花火とかイベント事は初めてだよね」
美優は付き合った当初の事を思い出しているのか、懐かしむように照れ笑いを浮かべていた。
そんな表情を見て。おれは自然と美優の手を握っていた。
手を急に握られて、身体が少しビクッとしたけど優しく手を握り返してくれた。
それに応えるべく、美優の指の間に自分の指を絡ませた。所謂、恋人繋ぎの状態に。
「この握り方は初めてだね」
「ごめん、嫌だった?」
「ううん、嫌じゃないから離さないで」
握っていた手を離そうとしたけど、それ以上の力で美優が手を握って離れさせなかった。
「あ…」
いつの間にか視線が重なる。
夕焼けに照らされているせいか、美優の顔は少し赤くなっているように見える。
「美優…」
自然と口から溢れていた彼女の名前を呼ぶ音。
「ん…」
目を閉じ、いつでも良いよと顎を少し上に向けた。
いつの間にか、蝉の鳴き声も聞こえなくなっていて、代わりに自分の心臓の音だけがうるさいくらい聞こえてくる。
緊張のあまり握った手から、手汗が大量に出るのを感じたが、今はそんな事気にしてられなかった。
一度大きく深呼吸をして、空いている方の右手を美優の肩に乗せた。
美優の肩が小さく揺れたのを感じながら、彼女の唇に自分の唇を近付ける。
距離が近くなる度に心臓の音が先程よりも大きく聞こえる。
少しでも動いたら重なりそうな所まで来た時、ふと目線が下、彼女の胸元に行った。
彼女の胸元が夕焼けに照らされて、下着が透けて見えていた。
「も、もう暗くなってきたし帰ろうか!」
浮き出た彼女の暗緑色の下着が妙に色っぽく見えて、俺と美優だけの世界から現実へと意識が強制的に戻った。
俺は慌てて、美優の肩から手を離し、胸元から目を逸らす為にベンチから立ち上がった。
急に立ち上がった俺を訝しそうに見たあと、自分の胸元に目を向け、下着が透けている事がわかった美優は、恥ずかしさから、両腕で胸元を抱くように隠した。
「ご、ごめん見てないから」
「いくじなし…」
慌てて謝る俺に、彼女の小さな声で言われた言葉は、いつの間にか再開された蝉の鳴き声のせいで耳に入ってこなかった。
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