僕は異常らしい

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僕は異常らしい

「異常…と言いますと、どれ位が…?」   「うん、まずスキル。Lvが14なのにすでにほぼ全部MAXの10まで行き着いてる。」 あ、マジですか。10が最大なんだ… まあ、多分向こうでも無意識に使ってたりしてたんだろうね… というか、14ってレッドベルフ倒しただけで14まで上がっんだよね?…すごいね。   「で、一次ステータス。DEFが100なのはまあ、人並みだからいいとしよう。問題は他3つだ。ATK400とか並のモンスターなら素手でタイマン張れる。それに謎の+5000とかいう数値が付いてる。SPD2000は…もう何も言うまい。全力で走ろうものなら人には視認すらできない。AVO400も…異常だね。攻撃当たらなくなるよ?」   「それについては、当たる気無いですからね。」 反撃に合えばスキが生まれる。スキが生まれれば迷いや焦りが出てくる。仕事がしにくくなるのは目に見えるし、何よりわざわざ自分に不利になるような戦い方はしないようにしてる。   「はぁ…それとは別に、逆にMP量が少なすぎる。Lv1の一般人でもMP500はあるよ?Lv14で140ってのは…少なすぎない?」   「それは知りませんよ…」 もしかして、魔法とかそういうのがない世界だったからMPとかも少ないのかな?でも、あることはあるんだね…。   「まあどうであれ、いくら強くても流石にここに女の子を一人で放っておくわけに行かないからね…一緒に街に戻るか?」   「うーん…そちらが良いのであれば。」   「分かった。…あと、報酬は今回はヴェイルちゃんが全てもらってくれよ。」   「え…へ?」   「いや、実際に倒したのはヴェイルちゃんが一人で倒したわけだしね。」   「あ、はい……あ、それと、」 そうだ、あれ、言っとかないといけないよね?   「?」   「あー、あの、この状態って素の状態じゃなくて…そのー…見てもらったら早いんですけど、」 とりあえず引っ込め、って念じてたら引っ込んだから今度は出てこい、って念じてると…   「ほー…」 ぴょこ、と狐耳が出てきた。と同時に…   「って…」 そういや右耳攻撃食らったんだった。痛て… まあ、左耳じゃなくてよかった。運が悪かったら聴覚が完全に封鎖されてたかもしれない。   「わっ、傷が…リーンさん!」   「はい!…〜〜〜〜〜〜〜ヒール。」 何やらブツブツ言ったあと、手を耳にかざすと痛みが引いて完全になくなった。   「おぉぉ…」   「はい、…にしても、狐とのハーフですか?にしては尻尾とかはないですけど…」   「あー…よく分からないんですけど、とりあえず普通の人間じゃないかも、って所は。」   「なるほど、分かった。」 変な差別的なやつとかがなくてよかった。何かあるじゃん。あの…こういう、人じゃないけど人の姿してる奴は全員奴隷、とかそういうやつ。 あ、というか、今更だけどこの体でも片目と片耳使えないんだね。慣れてたから違和感がなかった。 ちなみに使えないのは左目と右耳。   「さて…そろそろ着くよ。」 ふと前を見ると、また大きな鉄の門の前に屈強で硬そうな鎧を着たおじさんが四人、剣やら槍やらを持って待機していた。   「、証明書を見せろ。」 ふとそう言うと、レンさんがしまった、と言ったふうに顔を歪めた。もしかして…   「なあ、証明書が無い人間はどうやっても入れないか?」   「無理だな。ステータスを見せられても種族位なら捏造する魔物もいるしな。」 ぬぬ…どうするか…いや、別に四人がかりでも問題なく勝てるんだけど、あんまり力だけで押し通るのも良くないし…   「この四人は証明書はあるんだけど、この子が外で迷子になってたみたいで…」   「そんなわけ無かろう。私達はずっとここで出入りする者を管理しているのだぞ。」   「…気配隠蔽のレベルがMAXでも?」   「ハハハ、そんなものはありえない。気配隠蔽自体入手は相当困難なんだ。さらにそのレベルが最大値まで達するなんて言うのは不可能に近い。」   「いや、この子がそうだよ。外に出て遊びたかったみたいでね、無意識にその気配隠蔽を使って外に出ていたらしい。…まあ、そのおかげで魔物にも襲われてなかったみたいだけど。」 おぉ、レンさんすごく真っ当らしい嘘を付いてる…   「ぬ…だが…」   「まあ待て。」 槍を持った兵士が何か言おうとするも、その隣の兵士が制止する。   「なら、ここでそれを見せてもらえばいいだろう。そうだね…じゃあ、僕達にバレないように気配隠蔽を使って、この付箋をこの門の守護者四人の背中に貼ることができれば信じるよ。」 なるほど…楽勝だね。   「…ヴェイルちゃん、どうする?」   「…受けないと入れないようなので…やらざるを得ませんね。」 で、一歩進んで付箋を4枚、受け取る。   「じゃあ…」 と、四人が僕の周りを囲む。   「始め。」 ふとその兵士が言ったため、外でやっていたよりも集中して隠密と気配隠蔽を併用する。   「っ!?消えた…!?」 で、全員の背中に回り、付箋を貼ってついでに懐にあったペンでニコちゃんマークを書いて元の位置に戻り、両方を解く。   「はい、勝ちですね。」   「っ!?って本当に貼られている…ん?上に何か描かれてるぞ…?」   「笑ってる顔か…?」 あ、ここニコちゃんマーク無いのね。   「確かに、全く気付けなかった…これでも私は看破と気配察知のレベルが4と5なんだけどね…これはもう、信じるしかないんじゃないか?魔物ならわざわざこんな事せずにそのままスキルを使って侵入すればいいだけの話なんだし。」 あ、確かに。言われてみればそうだよね。   「しかし…狐とのハーフか…中にはちょっと厄介な奴らもいるから気を付けておけよ。狐との半分は珍しいからな。そういう奴らを捕まえて見世物にs「おいツォービ。」っ!」 ドッ、と殺気が飛ばされた。出処を探るとさっきの試合方法を言ってきた人がツォービって呼ばれた人を睨みつけていた。というかこんな殺気使えたのね…ま、殺気だけで考えると僕の方が強いけど。   「そんな怖がらせるような事を言うんじゃない。まだ年端もいってない子供にトラウマを植え付ける気か?」   「っ!!い、いや…」 ツォービと呼ばれた人が冷や汗をかきながらそう答えた瞬間、殺気が止み、目元も普通に戻った。   「ならよし。」   「はあぁ…ほら、早く行けよ。」 と、門の前から退いて通れるようにしてくれたため、「ありがとうございます。」と少し礼を言ってから門を通る。   「ヴェイルちゃん、さっきのやつの言ってた事は気にしなくて大丈夫だからね。」   「はい。」   「にしても…あんな態度取られたのに怒りもせず礼まで言うって…心広すぎないか?」 え、普通じゃないの?   「えー…と、普通だと思うんですけど…向こう方も仕事を全うしたまでですし、忠告についても親切心で言ってくれたものだと…」   「あの顔は完全に怯えさせようとしてたわよ…ヴェイルちゃん、中々肝座ってるねぇ。」 まあ…中身があれだからなぁ…よっぽどよりはマシだしね。   「…ヴェイルちゃん、一つ聞きたいんだけど…」   「、はい?」   「その、お父さんとかお母さんってどこにいるの?」   「…………」 あんまり考えるのも良くないらしいね…アレ、としか考えてないのにこの速度だよ。   「あーいや、流石に心配するだろうなーと思って…」   「…家族は、いません。」 「…えっ…」 あんまり話したくないけど…ここまで言っちゃったら全部吐いたほうが楽かも、って思った。   「元々は父さんと母さん、あと弟が一人いました。…全員今は天国にいます。とある暗殺者のせいで。」   「…ねぇ、それ話しても大丈夫なやつなの…?」 聞こえない。   「父さんの会社の競争相手で、それに負けて逆恨み、って感じだったみたいです。それで、暗殺者を雇って父さんは死にました。」   「ねえ…」 聞こえない。   「母さんと弟はその巻き添えです。…私は、生き延びました。…生き延びてしまいました。目の前で父さんが急に頭から血を吹いて、倒れて、弟をかばった母さんの背中に穴が開いて、そのまま弟も、です。」   「ヴェイルちゃん…!」 聞こえない。   「…そこからはずっと一人です。…だから、一人で暗殺者を目指しました、そいつらを殺すために。まあ、3年経てばその目的も達成されて、でも成り行きでそのまま今も、って感じです。」 その頃はあの世界の仕組みなんてわかってなかったから、ただがむしゃらに強くなったけど、今思えば必然だったのかも、とも思う。少なくともあの世界にいる人たちは全員犯罪者、もしくはその子孫。悪感情を抱いてもおかしくないし、暗殺者とかにやられた人は数しれず。だから僕は、前の自分…俺を隠すために、僕を表に出した。そして、殺される、その恐怖を知ってるから本当に殺してもいい、殺すに値する人間か確認してから仕事は受ける。 と、話が終わる。ふと足が止まっていた。   「………………ごめん。軽々しく聞いていいものじゃなかったね…」 レンさんがうつむいて言ってきた。…やっぱりそうなる…?   「良いんですよ、こっちが勝手に話したことですし。それに、もう慣れましたしね。どちらかというと…それでも普通に接してくれたほうが気が楽です。今まで変に心配されて生きてきたので。」 もう、この返答には慣れた。 …そういえば、僕がいなくなったあの世界は、ある程度の秩序は保たれるのだろうか。暗殺者がいなくなれば、恐怖が和らいで、余計な輩が増えるかもしれない。……まあ、流石にまだ暗殺者は複数人いるみたいだから良いんだけど…   「ま、まあ、ともかくギルドのところに行きましょ!ヴェイルちゃんの登録とかもしないといけない訳だし。」 話を変えるようにリーンさんが言った。それもそうだ、と再び足を動かし始めた。
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