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対貴族戦闘
「うーん、6時間か…」
短剣ができるまで6時間。どこかで暇をつぶす必要がある。いやまあ、ギルドに戻ってもいいんだけど、ここら辺で暮らすことになるわけだし、色々把握しときたい事ってあるじゃん?
…いや待って。
そういえば、僕家ないじゃん。
そうだそうだ。すっかり忘れてた!僕今日泊まるところがないじゃん!
最終、ギルドで寝泊まりする…?いや、この体の免疫機能がどんなものか分からないから避けたほうがいいね…
宿屋とかあるかな?…あわよくばアパート的なのとかあったらいいんだけど。
と練り歩いていると…
「オラオラ!どけどけ!」
「平民が道の真ん中歩いてんじゃねえよ!」
「黙って頭下げてろよ!その首叩き切るぞ!」
何やら後ろから物騒な声がする。
まあ…何というか。異世界じゃテンプレ?っていうのかな?こういう貴族的なやつ。
「おい!そこのガキ!」
なんだろ。子供相手にも喚き散らしてるんだろうか。うるさいなぁ…まあ、依頼があったり、こっちに何かしら危害が加えられてないと余計なことはしないんだけど。
「おい!その獣耳は飾りか!?獣はやっぱり頭が悪いんだな!」
……ねぇ、すごーく嫌な予感がするの僕だけかな?
「よーし分かった!この俺様がお前を奴隷ペットにしてやる!喜ぶんだな!」
…………まさかとは思うけど…
「…私だね…」
後ろを見ると馬車に乗ったいかにも貴族!みたいな奴がいた。護衛が3人…ね。
「なっ…!?エレオノーラ様!子供にまで手を出すのは…!」
「あぁ?なんか言ったか平民?」
一人の男の人が言い出したけど、黙らされる。…こう言うのは本当に良くないね…
「っ…」
「…あの、言わせてもらいますと、そちらの奴隷になる気など毛頭ございませんので。」
横目で見ながらそのまま去ろうとすると、目の前に火柱が立った。
「あ?お前みたいなガキにそんなものを選ぶ権利なんか無えんだよ嬢ちゃん。…にしても、顔は中々可愛いじゃねえか。」
と、降りてくるエレオノーラとか言う貴族に対して…
ストン
「あ?」
「…三度は言いませんよ?
お前の奴隷になんかなるかっつってんだよ。」
殺気を放ちながら言う。まあ、どうせこの程度で引くわけないんだし、攻撃してきたら応戦して返り討ちにするだけ。簡単な仕事になる。
「なっ…くっ、お前達!あの小娘を捕まえろ!」
「「「はっ!」」」
と、3人の護衛が大きく剣を振りかぶって飛んで…
そのまま後ろに吹き飛んだ。
「…は?」
「…え?」
いや、マジで僕は今回何もしてない。え、何が起こったの?
「……うちのお客に手は出さないでもらえるか…?」
「っ、…え?が、ガルハンさん!?」
緑に光る斧剣を振り下ろした体勢のガルハンさんがいた。
「何やら表がうるさいと思ったら…お陰で集中できねえ。せっかく純粋なレッドベルフのソウルコアを加工できるって機会に何してくれてんだテメェぁあ?」
うわ…殺気が凄い…最初、ぶっ飛ばすとか言われたときに避けれる、みたいなこと言ったけど…多分この人、僕の何倍も強いよ。上には上がいるなぁ…
「なっ、何だお前!ちっ…おい!何寝てる!とっとと起きてあんな平民殺してしまえ!」
《ガルハン視点、数分前…》
「レッドベルフのソウルコア…!オリハルコンよりも貴重なんだ…!鍛冶屋冥利に尽きる!よし!」
子供は嫌いなんだがな。
あの子は何というか…ただの子供とは訳が違う。あんな華奢な見た目をしているが、にじみ出るオーラみたいなものは隠せていない。
…そういや、銀髪はそれなりにいたりするが、金眼ってのはあんまり見たことないな。
まあ、それより目の前のものだ。
俺は、表向きただの鍛冶屋兼質屋だが、レベルは85だ。
昔延々と自分で作った武器でモンスターを倒しまくってたらバカみたいなレベルになってた。あれは焦ったな。鍛冶のレベルは上がるし、個人のレベルも上がりまくるんだもんな。
そのレベルのおかげで、大抵のものは俺にかかればあっという間に加工もできる。
さて、そろそろ作業について取り掛かろうか!こんな貴重なものを売ってくれたあの子の為にもな。
よし…ん?何だ?外が騒がしいな…チッ、構ってる暇はないんだがな…こいつは中々加工に集中力がいるんだ。しかも話の節々に小娘やら獣やら奴隷ペットやらエレオノーラやら聞こえる。…まさか…あのクソ領主か…!くそ!許しておけん!うちのお客様を奴隷ペットだと?ふざけるなよ…!
壁に掛かった斧剣を手に取り、家のドアを蹴破る勢いで飛び出て、斧剣に風魔法を濃縮して込める。これもソウルコアから作ったものだ。だが、D級の、そこまで純粋なものでもない奴だ。それでも、並の武器など目ではない。
と、通りに出るとあのクソ領主と、あの子に飛びかかる兵士が遠くに三人見えた。
兵士三人に狙いをつけ、小声で詠唱をする。
「風の精霊、シルフの加護を受けし剣、荒れ狂う嵐と化し、万物を吹き飛ばせっ!」
斧剣を上に構え、斬撃に乗せて風魔法を放つ!
「最高風魔法弾ォッ!」
で、とりあえず兵士はぶっ飛ばす。
「…は?」
「…え?」
と、アホ面をしているエレオノーラを見据え、あの子の後ろに風を纏って移動する。
「……家のお客に手は出さないでもらえるか…?」
「っ、…え、が、ガルハンさん!?」
お?俺の名前、言ったか?
まあ、誰かに聞いたんだろ。どっかの八百屋の店主とか口軽そうだしな。
「何やら表がうるさいと思ったら…お陰で集中できねえ。せっかく純粋なレッドベルフのソウルコアを加工できるって機会に何してくれてんだテメェぁあ?」
斧剣を向けながら言う。ちゃんと殺気も飛ばす。まあ、ちょっとした威嚇だな。
「なっ、何だお前!ちっ…おい!何寝てる!とっとと起きてあんな平民殺してしまえ!」
「…ふん。お前等ごときが俺を殺せるとでも思ってるのか?この野郎……うん?」
全く、吠えやがる…ん?何だこの雰囲気…っ!?
と、暴風が吹いた。
何だ…!?何なんだ!?これは…エレオノーラの魔法…じゃないな…なら、何なんだっ!?この…肌がヒリヒリするような物、どこから…前…!?
あの子が、震えながら、体に収まりきらないほどの殺気を爆発させていた。いや、爆発とは言っても、無闇に周りに発してるわけじゃないな…エレオノーラに向かって放射してるののこぼれが周りに流れてる感じか…
これはどうなってんだ…こぼれにしてもかなりやばい量だぞ…と言うか、周りの奴らも何人か気絶してるやつらがいるな…
「……殺す…?」
ゾッとする声だ。一瞬全身が悪寒に包まれた。
「…そっか。お前は知らないのか。…人が死ぬって事が一体どんなことなのか…!」
これは…そうか。この嬢ちゃん、何か訳ありだな…
「大切な人が目の前で倒れて、苦しむ。血を吐いて、でも、必死に生きようとして…そうしてたらまた、もう一人倒れる。その人の大切な人を一人でも多く助けてあげようとして、もがき苦しむ。…そんな光景を見せつけられながら、自分は何も出来ない…これが、お前がやろうとしてる事なんだよ…!」
バッ!と手を大きく振り上げた所から、ナイフが飛んでいく。と、領主の袖や裾を馬車に縫い付ける。
「ひ、ヒッ…」
「聞いたところじゃ…もう一人や二人じゃないんでしょ?…よくそんな事ができるね。罪もない人を殺して…身分制度なんてものを盾にして権力を振りかざしてる。よっぽどここに生きてる人たちの方があんたより大事な命だ。」
「お、おい!お、おおおお前、俺がだっ、誰か分かってるんだろうなっ!?この一帯を支配するエレオノーラ領主だぞっ!?こんなことして許されると「うるさい。」ヒッ…」
喋り続けようとするエレオノーラの真横にナイフが刺さる。…軌道すら全く見えなかった…。
「お前が何者とかどんな身分だとか、私を奴隷にしようとかペットにしようとか心底どうでもいい。…でもね、自分の欲に負けて人を殺すのは違う!自分の事を持ち上げるような奴なんだったら、殺すべき相手かどうかぐらい間違わずに見分けてみろよ!」
………本当にこの嬢ちゃん、いくつだ?
十数年生きた人間の言える言葉と気迫じゃない。…まあ、人間ではないんだが…
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「っ……今だっ!」
はっ?
「へへ…御宅は済んだか嬢ちゃん…」
「っ…!」
別のガキをひっ捕まえて首にナイフを突きつけている。あの野郎…どこまで屑だ…!
「へへ…一歩でもそこから動いてみな。この子が死ぬことになるぜ?ま、嬢ちゃんが動かなけりゃいい話だ。」
「……………」
と、腰から曲がった黒い何か…杖か?を取り出す嬢ちゃん。
「あ?魔法か?良いぜ。詠唱も始めた瞬間首を飛ばしてやるよ。」
「た、助…けて……!」
捕まってるガキがそう呟いた瞬間、
「ま、平民ごときが俺に傷を付けれるはずが…」
「………そう。」
「あ?」
パァン!
なにか、破裂音のようなものがなった瞬間、エレオノーラの腕から赤い液体が吹き出していた。
「…は?」
と、その瞬間嬢ちゃんは見えない速度で地面を蹴り、エレオノーラの顎に一撃を与え、捕まってたガキを助ける。
「大丈夫?」
「あ、あぁ…ありが…とう…!」
「お前…もう怒ったぞ…!殺す!」
と、エレオノーラが飛んだ瞬間、反対方向からも兵士が跳んだ。
まずい!挟み撃ちだ!
と、
「……あっそ。」
タンタァン!
再び破裂音が2回して、伏せた嬢ちゃんの周りに赤がまた飛び散る。
「…はっ?な…何故だ…!?こんな威力の魔法を…何故無詠唱なんぞで放てる!?」
「…お前とは格が違うってことだよ。そんなことも分からないの?…つくづく呆れるね。」
「っ…この野郎…こうなりゃ…爆裂魔法…!」
はっ!?爆裂魔法!?こんなところでそんなもの放てば、被害は数人死ぬ程度じゃすまなくなるぞ!?
くそ…
「この…!かまいたちの腕、風神の烈…」
くそ、間に合わないっ!?
「っ、チッ、FSR264装填、…Fire!」
嬢ちゃんの手にあの黒い杖とは違う、でも少し似たような、それより長い杖が出てくる。と、それをエレオノーラに向け…
バゴオォォォォン!
「ガッ!?」
な、なんつー音量…!?と一緒に出てきた煙…?何が起こった…!?
と、煙が晴れ…
「…なんとか間に合った。良かった。」
片腕を抱えながら佇む嬢ちゃんだった。その前には、エレオノーラ…だったものがあった。
位置的にそうだろうと思っただけで、ほとんど原型は留めていない。まるでミンチ肉だな…
「…嬢ちゃん…何者だ…?」
かろうじて、声が出た。
バリアを張って人質を作るエレオノーラに傷をつけられる程の遠距離魔法を放ち、一瞬で移動でき、更には人を人の形を留めない程にできる魔法も無詠唱で放つ。
…俺には…及ばないものなのかもな…
「…私は…ヴェイル·ミル。しがない暗殺者です。」
こいつは…ちょっと規格外すぎる人を見つけたな。
目の前で人がミンチになってるのに笑ってるんだぜ?大笑いとかじゃなくて微笑んで。それに、顔は笑ってるけど何と言うか…空っぽ?薄っぺらい笑みほど怖い物はない。
だが、それより今は……
あのクソ領主が死んだ、その事実が残っているぞ!
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