イカルバンダイ

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 浴室内はホームページの写真よりもキレイで広々としていた。  床一面に人肌の温度に保たれたクリーム色のタイルが敷かれている。濡れているのに全く滑らない。  子どもがいないせいか浴室内は比較的静かで落ち着いた雰囲気だ。一番大きなハーブ風呂の近くについている大型テレビの音がとてもよく響いていたが全く苦にならない。  とりあえず入浴する前に体を洗おうと洗い場へ向かった。足を進めるにつれ、心安らぐような不思議な香りが漂ってきた。椅子に座って備え付けのシャンプーを見ると、香りの元はここからだと気がついた。このシャンプーやリンスは備え付けにしては高級品だった。僕でも知っているメーカーの商品。ボディソープはもちろん、洗顔フォームまで備わっている。試しに一押しボディソープを手に取り、泡を立てた。レモンとハーブの香りで、甘すぎず、香りは強過ぎず。男性にも喜ばれそうなチョイスだ。  これなら持ち込みの石鹸類は不要だ。僕はますます気に入った。  そしてシャワーを出し、足から膝へとお湯をかけていく。あぁ、気持ちが良い。をしてから、全身を洗おうと再びボディソープを手にした時だった。  ビービービービーと、ものすごく大きな機械音が鳴り始め、それと同時に浴室内の明かりが全て赤く点滅し出した。  まさか、これが先輩の言っていた一発アウトのサイン……。  僕は辺りを見回した。周りの客もキョロキョロと周りを窺っている。脱衣所と浴室を繋ぐ扉を力強く開ける音がした。そちらを見ると、黒いTシャツに黒いパンツを履いてサングラスをした筋肉質の男性四人組が浴室内に入ってきた。足元は四人とも裸足だった。四人はズンズン無言で洗い場の方へ向かってくる。僕も周りの人も、誰だ誰だと言わんばかりに辺りを見回す。  四人はどんどん近づいてきて、僕を取り囲んだ。そして二人が僕の脇を抱えると、残り二人が僕を他の客から見せまいとブルーシートを両手で広げた。  僕は頭が真っ白だ。
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