イカルバンダイ

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 番台のおじさんはあるに怒っていた。それも、すごく長く。何年も何年も。  その怒りの原因のひとつはおじさんの鼻のせいなのだ。おじさんは鼻が犬並みにきくらしい。それを教えてくれたのは、会社の一つ上の先輩だった。  その先輩が、学生時代から風呂無しアパートに住んでいる自分に、オススメの風呂屋を紹介してくれたのだ。  その風呂屋、元は下町の銭湯だったが、経営者のおじさんの風呂好きが高じて、大人専用の健康ランドとも言えるような巨大な施設をつくったというのだ。  銭湯だった名残なのか、新施設にもが残っていて、おじさんは営業時間のほとんどをそこに座って過ごしていた。と言っても、その番台は昔のように男女の脱衣所を隔て、料金を支払う場所では無い。もちろん番台からは女性の脱衣所など見えない。ただ、番台と書かれた立て札と椅子が置いてあるだけ。椅子に座っているおじさんは、客にいらっしゃいの言葉を掛けながら、新聞や本を読んで日がな一日を過ごしている。閉店間際には自分も風呂に入り、店を閉めるらしい。
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