1章:私は一般の中でも幸せな方なのだろう

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 ただ色んなところが痛くて、コトが終わった後は無心で家事をしていたのを覚えている。「サプリを飲んで元気になっちゃって」ってスッキリした笑い声が聞こえてきたけど、それに答える余裕なんて、なかった。子どもが泣いても、無言で家事をしていた。すぐに泣き止んだから多分旦那がなんとかしてくれたんだろう。「おかーちゃんは今疲れているから」となんとか言っていたのはかすかに聞こえた。  ……痛い  涙は零れなかったけど、枯れ果てた涙がずっと流れ続けている気分だった。  ……怖い  旦那が怖い。愛しいはずの人が怖い。愛さなきゃいけないのに後ろに立たれるだけで身体がびくりと強張り逃げ出したくなる。すれ違うたびに身体を触られ服の中に手を突っ込まれても引きつった笑みを浮かべて従うしかない自分がいる。引き寄せられて唇を奪われるのはこれまで何度もあったけれど、それは幸せだったはずだった。  ……いやだ  けれど今はもう、口内にねじ込まれる舌の感触も私自身を味わおうとする愛の籠った舌も気持ち悪くて仕方がない。早く離れたくて押しのけようとする行動が全て、嫌よ嫌よも好きの内、に捉えられてしまい私の心は次第に死んでいく。  ――どうしたらいいかわからない……  我慢すればするほど壊れていく自分を感じて怖くて恐ろしくてどうしていいかわからなかった。  ……吐きたい  でもこんなこと誰に言えばいいのだろう。母には言いたくない。家族には無理。友達は? ……愛されて羨ましいって言われて終わる気がする。  ……わかんない  どうしてそう思うかはわからない。ただ、もう生きていたくないって思った。  こんなに怖くて嫌なのに私ばかり我慢しなきゃいけないこの状況に意味がわからなくて逃げ出したくなった。ちゃんと逃げ出すには死しかない気がしてならなかった。
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