エピローグ

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 忘れ物が多いし、よく人とぶつかるし、地図を反対に見がちだし、無意識に結構大きな鼻歌を突然歌ったりしていて指摘されるたびに赤面している。「あーあーキコエナイ」とする私に「ほらほら現実を見てくださいよ。目をそらしてはいけませんよ。これが観音さんです。諦めましょう。現実を受け止めましょう」とニヤニヤとした様子で怒涛の早口を繰り出す蒼君は人をいじめる時も早口なのだと新しい発見もあったりした。  こんな感じでお互いのことをどんどん知っていった私たちは、お互いを「面白い人だ」と笑い合う回数がさらに増えていた。  一言で言えば、幸せ、で間違いなかった。  なんて楽しい友人関係なのだろうと、私はちっとも悲しくなんかないのに涙が出そうになるほど体中がポカポカとする時ばかりだった。  ――この関係に辿り着くまで、怒涛のような日々があった。  それは思い出すだけで吐き気がするようなものもあるが、それらがあったからこそ今の穏やかな日常があるとも間違いなく言えた。  私は一度離婚を決意したものの、子どもや未来の生計を考えて結婚生活を続けるというのを選択するのは勇気のいることだった。でもその結果、今私と旦那は仲睦まじい家族と周りから評価されている。気づけば私の口からは優しすぎる旦那に対してののろけしか出てこないらしく、いつも黙って聞いてくれる蒼君でさえも「そろそろ違う話にしません?」とうんざりしたように言うぐらい呆れられるほどにまで。  旦那を見るだけで震えて動けなくなった自分が今の自分を知ったら驚いて呼吸の仕方を忘れるほどだろう。よくここまで関係が回復したものだと、私と旦那も不思議でならない。けどこういった結果に辿り着けたのは間違いなく”気持ちのぶつけ合い”という名の話し合いだ。話す、というのはもしかしたら私たちが思っている以上に非常に大事な人間の行動なのかもしれないと、私はたまに哲学的なことを思っては1人感心している。  それと、蒼君には話していない……というか話せないのだが、あんなに嫌だった夜の営みも実は徐々に復活していた。
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