1章:私は一般の中でも幸せな方なのだろう

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 彼は頻繁に私を求めた。私は彼を喜ばせたくて絶対に断らなかった。  でも、私は、ただ抱きしめてもらうことの方が好きだった。  抱きしめるだけで我慢しなきゃいけないのは辛い、て言っていたけど、その要望に彼はいつも答えてくれた。  愛してる、好きだよって言葉を添えて。  結婚しても変わらずそうしてくれて、私は嬉しかった。  すごく、すごく、嬉しかった。  幸せだって、思った。  ……最初、だけは。 「ねぇ、抱きしめて」 「ん」  ちょっと甘えたくて頼んだ私にすぐ答えてくれる旦那。  仕事が終わって疲れていたのか、私の肩に顔を埋めて額を摺り寄せて、首筋に唇を添えた。くすぐったくて私が「フフ」て笑ってると、シャツがまくり上げられた。ゆっくりと腰をさする動作に「ん、」と思わず息を漏らした次の瞬間、私は冷たい床に倒されていた。 「……痛い」 「ごめん」  見上げた旦那の顔は獣の顔。  ああ、そんなに私に欲情してくれるんだなと、嬉しかったことをかすかに覚えている。 「ごめん……いい?」
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