僕が勝手にそうすると決めた。北条さんを巻き込んで、脚光を浴びせたいと思ってしまった脇役なんだから。

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「で?まんまと逃げられたわけ?」 前の席に肘をついてイチゴオレのストローをくわえながら里中が言う。こいつとは小学からの腐れ縁で、なぜか馬が合う。 「仕方ないだろ。いくら話し合ったって、言い張られたらずっと平行線のままじゃんか」 「まあ、北条さん相手だし。相手が悪いよねぇ」 窓からピアノ伴奏が聞こえてくる。 他クラスの課題曲だろう。伴奏者も大変だ。本番まで一週間をきった。練習にも余念が無い。 「北条さんに抗議した女子たちはみんな、返り討ちにされたみたいだね。満を持して登場の佐藤実行委員には、荷が重すぎたな。なんでも本領七割の男だからね」 「そんなんじゃないけどさ」 たぶん。そう思いたい。 僕には御大層な主義主張なんてない。 あるのは新学期の役員決めの時に、たまたまくじで引いてしまった合唱祭実行委員という、気乗りしない役割があるだけだ。 大してやることもないだろうと呑気に構えてたのに、先週、ホームルームで合唱祭に向けて放課後、練習しようということになった。一応「自由参加」という形だが、みんな気を使ってしぶしぶ参加していた。 けれど、そんな状況が一変した。 きっかけは北条さんだった。 北条さんは終礼後、すぐに帰宅するのだから、ざわつかない方がおかしい。 断わる勇気を持てない者からしたら、英雄で英断だ。 あとはなし崩し的に、なにかと理由をつけて放課後の練習をサボる生徒が後を絶たなくなった。
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