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「や、やあ。向山さん」
「北条さんに、言ってくれた?」
「あ。う、うん」
「で?」
僕は首をすぼめて横に振る。
ほぼ同時に向山さんの口からため息がもれた。
「ねぇ向山さん。なにも強要してなくてもいいんじゃないかな。自由参加って言ってるんだし」
「うん。そうね。あくまでも自主性が大事だと思う。だから北条さんや他のみんなにも、私からはなにもないわ。好きにすればいい」
「それは意外。向山さんはもっと、規律重視なんだと思った」
「え?私そんなにガミガミ言う?」
いや。向山さんの場合、目にものを言わす類だ。
「佐藤くんからも誘ってみてねって言っただけじゃない」
いや。そんな言い方ではなかった気がしたが。なぁ里中。って話を振ろうとしたら、もう既に別のグループに溶け込んでる。身軽なヤツめ。
「ただね。あれ見て。彼女たちが何してるか、わかる?」
向山さんの目線を追って振り返ると、いちばん前の右隅、向かい合ってノートを挟んで、なにか喋ってる女生徒が見える。田沼さんと小林さんだ。ここからだと内容までは、わからない。
「何かな?課題の話じゃなさそうだけど」
「あれ、クラス一人一人に合わせて、歌唱力をつけるためのポイントを相談し合ってるのよ」
「え?一人一人?」
「そう。うちのクラス、一人一人。個別に声を聞き分けて、歌唱パートの声質や発声をチェックしてるの。それでみんなに最良のアドバイスができるよう、二人で相談してる」
「ふぇー。すごいな」
「普段は日陰で目立たない子達が、この行事に向けてイキイキし出すの、見ててわからない?」
そうか。そういう生徒もいるのか。つい自分本位でみんな歌いたくないものとばかり思い込んでいた。周りを気にしない僕の悪いところだ。申し訳ない。
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