木曜日

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「え、なんですか?」 「そうたいしたものじゃないけど――今日のボーナスは良く喋るなあって」 「うわあ」  あまりにも悪質なクレームに関しては、応対した社員に対して臨時ボーナスが支給される。数年前に始まった制度だが、おかげでコールセンターのやる気はもちろんのこと、現場やイレギュラー的に応対をする羽目になった社員も臆せず相手をするようになった。上層部の一部からは社員を甘やかしすぎでは、と意見も出たそうだが、社員のやる気となによりもクレームへのストレスから退職する社員が減るならばと社長が押し切った。おかげで社長の株は爆上がりしたものだ。 「でもこれ最初に言い出したの五月だからね」 「アイツは駄犬ほどよく吠える、じゃなかったか?」 「五月は基本的に口悪いもんなあ」 「先輩以上にですか?」 「お前は本当に俺に対してだけ口が悪いな?」  晴香の頭を大きな掌で掴むと葛城はそのまま指先に力を込める。ギリギリと襲い来る痛みに晴香が葛城の腕を叩くが緩むことはない。そんないつもの二人のやりとりを「まあまあ」とちっとも心のこもらない声で、それでも一応宥める中条は無理矢理話題を変える。 「ところで今日は一日葛城と日吉ちゃんの話題で持ちきりだったんだけどさ」  うえ、と晴香は露骨に眉を顰めた。やっと職場を出てその話題から解放されたと思っていたのに、まさか中条からまで振られるとは思ってもいなかった。 「日吉ちゃん、顔」 「日吉ぃ」 「だって今日ずっと言われ続けたんですよ! 普段あんまり話したことない経理の人とかにまで言われるし! もー! それもこれも先輩があんなこと言うから!!」 「事実を言っただけだ」 「わーっ!!」 「いや、うん、もうその辺りはどうでもいいっていうか本当にお前のそのテの具体的な話は聞きたくないって前に言ったよなあ!」  いたたまれない気持ちになるからやめろ、と中条は睨み付けるが葛城は聞こえないとでも言わんばかりにグラスを傾ける。その態度に「このヤロウ」となるが一旦それは抑えて中条は話を続ける。 「それだけ色んな人間に知られてるのに、誰も二人の関係に突っ込んでなかったのがすごかったよなって」  当人達は元より、同期で仲が良いからと中条も話を振られたりしたが、全員が口を揃えたかの様に同じ事を言ってきた。 「年頃の女の子の部屋に先輩だからって泊まるなって……」  語尾に笑いが重なってしまう。その通り、ではあるけれども他にも浮かぶ事態はあるはずだ――一般的な成人男女の間であれば。
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