二回目の金曜日・1

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 なぜ自分の会社の後輩は名字呼びで関係ない自分を名前で呼ぶのか。ただでさえ友人達との気楽な飲み会を邪魔されて気分を害していると言うのに、さらにこの気安すぎる態度に晴香の苛々は募る一方だ。悪態の一つでも吐いてやろうかと思うが、それでもやはり友人の職場の、と思うと耐えるしか無い。 「俺さあ、晴香ちゃんみたいな子タイプなんだよね」  初対面でさらに酒の入った状態で口説いてくるとはチャラいですね! と、喉まで出かかった言葉をグラスの中身でどうにか飲み込む。代わりに隣で友人――坂下千里子が「うわチャラい」と代弁してくれた。 「そういや晴香ちゃんって飯島の元カノなんだって?」  突然の暴投に晴香はもちろん友人全員が固まる。直後、ものすごい勢いで隣の席、奥に座る元彼に視線が飛ぶ。あんたなに喋ってんの!? という無言の圧力に元彼が懸命に詫びている。 「竹原さん無理矢理聞き出したんですか!?」 「いやだってさあ、坂下とか他の子らもすげえ目つきで飯島見てるからどうかしたのかなー、って思って」 「学生の頃の話ですよ」  さすがに黙り続けているのも無理かと晴香はなんでもない風を装う。実際元彼の事はなんとも思っていない。今一番晴香の心をざわつかせ、もとい、苛つかせているのは目の前に居座る男だ。なんとか苛立ちを抑えるのに必死になる。 「だよねえ。ってことは今は晴香ちゃんフリーなんでしょ? だったら俺とかどう?」  ニコニコとした笑顔を向けつつも目は真剣だ。獲物を狙っているかの様なその視線。自分の顔の良さを自覚しているからこその自信とそれに伴う行動なのだろうが、興味の無い相手からの好意の押しつけは迷惑以外の何物でもない。  そもそもあなたよりわたしの先輩達の方が中身も外見もずっと遙かにぶっちぎって上ですー!! などとそんな子供じみた叫びを上げたい勢いであるが、それよりももっと強力な手札を自分は手にしているからと晴香は余裕を見せる。 「せっかくですけど、その、いちおう、彼氏もちなので」 「え!?」  驚愕の叫びは竹原から、ではなく周囲の友人達からだ。 「え、ちょ、まっ……いつの間に!?」 「うっそホントに!?」 「脳内じゃなくて!?」 「三枝以外に飼育員ができたの!?」 「みんな驚きすぎぃ!! そして失礼にもほどがあるんだけど!」  学生の頃からの友人ではあるが、数人はもっと前からの繋がりがある。今はこの場にいない三枝は一番付き合いが長く、初対面は小学生の頃だ。ずっと晴香の面倒というか突っ込みを続けていたせいで「飼育員」と呼ばれている。  先輩もなんだか自分のことをそんな言ってたな? と晴香は今になって不安に襲われ始めた。てっきり友人達の馴れ合いによる戯れ言だと思っていたが、全く無縁の葛城や中条にまでそう言う認識を持たれているということは、つまりは 「わたしそんなに野生動物?」 「いまさら?」  即答する友人達に情け容赦は欠片も無い。えええ、と唸る晴香に被せる様に堪えきれない笑いが上がる。
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