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「晴香ちゃんが野生動物か……たしかにそんな感じだよね、すっごい警戒心強い感じがまさに」
だから初対面の人にそんな言われる筋合いは無い、と今の瞬間存在を忘れていたのにまたしても入り込んできた事に素直に腹が立つ。今度は流石に顔に出てしまい、ごめんごめんと軽く謝られた。それもまた腹がですね、となるが横から腕を引かれて意識がそちらに向く。
「ちょっと誰よ誰なのよどんな人なの!?」
「ええと……職場の先輩」
「先輩ってあの人!? 前に言ってためっちゃイケメンだけどすっごい人相が悪いって人!」
「万年ブリザードの人?」
「でもその人最近雪解けしたんじゃなかったっけ?」
竹原をあえて無視する意図が半分、そして純粋な興味半分で友人達がせっついてくる。写真はないのか写真、と体ごと揺すられ晴香は携帯を取り出した。
「写真あったかな……」
付き合い始めたのは何しろ一週間前。それまではただの職場の先輩と後輩であるからして、携帯に写真を撮る様な事は皆無だ。
「ほんとに彼氏なの?」
どこかからかいを含む声を竹原から向けられる。この人本当に腹立つなあ、と晴香は無言で写真フォルダを探す。プライベートで撮った物はないけれども、確かイベントの設営などで撮った中に映り込んでいたのがあったはずだ。
「あ、あったこれだ。これ先輩」
中条と二人で商品展示をしている時の写真を見つけて友人にだけ見せる。横顔ではあるけれども、顔ははっきりと分かる。
「どっちの人!?」
「待ってこれどっちもすごいイケメンなんだけどー!」
「左の背の高い方」
きゃー! と黄色い声が上がる。隣りの席からも何事かと興味の視線が飛んでくるが、盛り上がる友人達の壁で塞がれる。元彼からの視線も。
「あんたよくやったわね!!」
「イケメンの飼育員ゲットしたー!」
「どうやったの!? 一服盛った!?」
「洗脳?」
「ち、が、う!」
「俺も見たいなあ。見せてよ晴香ちゃんの今彼」
きゃいきゃいと騒ぐ中に果敢に竹原が突っ込んでくる。この人すごいなー、と晴香はつい感心してしまった。空気を読まないのか、それとも自分の顔なら女性から邪険にされる事はないと思っているのか。友人達はあえて相手をしない事で圧をかけてくれるが、それで怯んではくれない。
「ねえ、見せてよ」
「先輩が知らない相手に自分の携帯は触らせるなって言ってるので無理です」
えへへ、と笑いながらも渾身の反撃ができた。先輩の威を借りまくっているがこの場においては許されるやつだろうと晴香はフフンと胸を張る。が、これでも竹原は止まらない。それどころかさらに晴香を苛立たせる顔と声で挑発してきた。
「彼氏なのに先輩呼びなんだ?」
「――ウザいことこの上ないですね!」
喉元まで出かかった。いや実際「ウザ」までは出てしまったが、それを凌ぐ勢いで友人達が反応する。
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