二回目の金曜日・1

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「あの場じゃちょっとチャラすぎたかもだけどさ」 「ソウデスネー」 「俺本気だから。どう? 俺と付き合わない?」 「あの、さっきも言いましたけど」 「彼氏がいるんだっけ? でもその彼氏と付き合ってどのくらい? まだそんな日が経ってないんじゃない?」 「そこまでお話しする義理はないかなと」 「晴香ちゃんってさあ、あんまり男と付き合ったことないでしょ? それこそ飯島と今の彼氏くらい?」  なんでそこまで分かるんだろうかと思わず驚きに目を見開けば、アタリだと笑みを深められる。 「なんとなく分かるんだよね俺、そういうの」 「それだけ色恋沙汰にうつつを抜かしてるってことですか?」  我慢の限界もさることながら、驚きと感心につい素直な気持ちをぶつけてしまう。それが剛速球であったのは若干申し訳ないが。 「言うね晴香ちゃん」 「すみません喧嘩売ってるとかではないんですけど、職場の後輩の友人で初めて会った相手にお酒の場とはいえあんまりにも馴れ馴れしいしグイグイ来るしおれイケメンだから! ってのを全面に押してくる人初めて見たって言うか、本当にいるんだなってのに驚いてしまって!」 「俺のことイケメンって思ってくれるんだ、嬉しいな」 「そこ拾うんですね! ポジティブすぎでは!?」 「そんなイケメンの俺とどうですか? 付き合ってみる気ない?」 「イケメンはわたしの先輩で間に合ってると言うか先輩の方が上なので!」 「そのイケメンの先輩が迎えに来てくれるの? さっき嬉しそうに携帯見てたよね? ちょうどいいから直接どっちがいいか見比べてみるのはどう?」 「比べるまでもないですね!」  面倒くさい! と言う感情を全部乗せて晴香は「じゃあこれで」と踵を返す。ここまで言えばいくらなんでも相手も去るだろうと考えていたが、それはどうやら甘かった。腕を掴まれ引き寄せられる。抱き寄せられる寸前、どうにか踏ん張って耐え全力で拒絶を示すが掴まれた力は緩まない。 「でも体の相性は俺の方が上かもしれないよ?」  近付いた耳元でそんな囁きがされる。瞬間、晴香の背中に一気に鳥肌が立った。 「晴香ちゃんそういうのもまだでしょ? 坂下と同じ年ならだいぶ若いじゃん、今のうちに色々試しておいたほうがいいと思うけどな」  きっとこれは甘い囁きとやらに入る物なのかもしれない。しかし晴香にとっては純粋に「気持ち悪い」以外の感情が沸かなかった。掴まれた腕も、耳に注ぎ込まれる声も、なにもかもが不快でいっそ吐き気さえしてくる。  離してください、と口にするのも気持ちが悪い。なるほどこれが生理的に無理と言うやつ、と晴香は全力で腕を引く。晴香が一瞬固まっていた事に油断していたのか、掴まれていた腕の力は緩んでおり簡単に振り払えた。  しかし勢いが余り今度は反対の方向に晴香の体が傾ぐ。これは後頭部から地面に行くのでは、と晴香は衝撃に身を竦めた。視界の端に一瞬映った竹原の慌てた様な顔からしても間違いない。まずいなー受け身ってとれないよねえそもそもやり方知らないし、と晴香は覚悟を決めるが地面ではない感触が肩に触れる。
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