二回目の金曜日・2

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 浴槽にお湯が溜まるまではいささか時間がかかる。それは当然だし理解するまでもない事だが、現状が晴香には理解できない。  ソファに深く腰掛けた葛城の膝に横抱きに座らせられ、ひたすら口付けを繰り返されている。さらには服の上からとはいえずっと胸元や腹部、太ももにその内側までをも撫で回されているのだから理解不能もいいところだ。  玄関でされたような激しさは今は欠片もなく、軽く触れたり唇を舐めたり、時折優しく舌を絡めるだけの穏やかなキスが続いている。体に触れる手もゆったりと体温を分かち合うような触れ方だ。しかし着実に晴香の体に熱を灯してもいく。  気持ちがいい、けれど、それだけでは足りないもどかしさも感じてしまう。息継ぎの合間に葛城と目線が重なる。離れた所ですぐに唇が触れてしまう距離だ。葛城の瞳の中に自分の蕩けた顔が映っているのが見え、晴香は羞恥で首を反らした。 「晴香」  こんな時ばっかり名前で、と顔を顰めるが、無理矢理元の体勢に戻されて宥める様に頬に額に眉間の皺に、と唇が落とされる。くすぐったさと気恥ずかしさに堪えきれない笑いが漏れると、口付けを繰り返す葛城の唇も弧を描く。戯れで繰り返されるキスに機嫌が上向いた晴香はずっと葛城の胸元を掴んでいた指を離すと、スルリと両腕を伸ばして今度は首筋にしがみついた。そして顔を上げて葛城の顎の下や首筋、つい目の前にあったために喉仏にキスを一つ落とす。ビクン、と葛城の全身が大きく跳ねたのはそれと同時だった。 「わっ!?」 「……お前」  喉を押さえて見下ろす葛城の目元がほんのりと赤い。おっとこれはやらかしてしまった案件? でも先輩赤くなってる……? とその顔をまじまじと見つめると大きな掌で目元を隠された。 「先輩卑怯!」 「なにがだよ」 「そうやって自分が照れてるとこを見せないようにするのはずるいです」 「ずるくて結構」 「けち! しみったれ! 器がちっさい!!」 「うるせえ啼かすぞお前」 「それは漢字が難しい方の不穏な気配しかしませんが」 「試してみるか」 「お断りします」 「まあ拒否権はないよな」 「横暴ーっ!!」  暴れ始めた晴香を葛城が軽くいなしていれば軽やかな電子音が室内に響いた。 「風呂の準備ができた」 「先輩お先にどうぞ」 「いいよお前が先に入れ」 「家主を差し置いては」 「なあ日吉」 「なんですか?」 「今はなんとか耐えてっけど、基本的に今日の俺はもう我慢の限界なわけだ」 「……と、言いますと?」 「気を抜くとさっきの玄関の時みたいにお前に襲いかかりそう」 「先輩ステイー!! 全力でステイですってば!」 「だから我慢してんだろうが。で、だ、この状況で俺が先に風呂を済ませてみろよ、お前どうなると思う?」 「イヤな予感しかしませんね」 「お前の風呂とかもう待てなくてそのままベッドに連れ込むぞ」 「僭越ながらお先にお湯借りますね!!」  晴香は葛城の膝から飛び降りた。ソファ下に用意してあった着替え一式を抱え込むと逃げるようにバスルームに飛び込む。それと同時、ひああああと間の抜けた声を漏らしながらその場に崩れ落ちた。
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