二回目の金曜日・2

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 恥ずかしい。しぬほど恥ずかしい。今し方のやり取りもだし、ドアを開けてすぐの貪る様に口付けされたのもさることながら、何よりも恥ずかしいのは部屋に入ってからのあのゆったりとしたキスの応酬だ。  流された。完全に葛城の雰囲気に流されてしまった。だって最後の方は自ら仕掛けてしまっていたではないか。まさかあんな真似をしてしまうなんて。  ドクドクと心臓が五月蠅い。破裂してしまいそうだ。本番はむしろこれからなのに、と思ったところでまたしても呻き声が上がる。晴香だって覚悟を決めてきたし、それを望んでもいるのだ一応は。けれどもその覚悟を葛城が容赦なく壊してしまうのだから始末が悪い。あの人本当にもっと自分の顔の威力をさあ! 自覚してくれないとさあ!! これだから真のイケメンはタチが悪いんだ、と羞恥を怒りに変換させない事にはシャワーを浴びるのもままならない。  そうよ先輩の動くR指定に比べたらあの飲み会にいた竹なんとかさんなんて雑魚よ雑魚!  すでに名前もロクに浮かばない友人の職場の先輩を思い出せば、葛城との相違点がポコポコと晴香の中に湧き上がる。  名前を呼ばれた時も、腕を掴まれた時も、真っ先に浮かんだのは嫌悪感だった。体を引き寄せられ耳元で言われた事は、話の中身も相まって虫唾が走るほどの物で。しかし葛城からは何をされても嫌だと思う事は無い。晴香と呼ばれて、抱き締められて、それこそ舌と舌を絡めあうほど濃密に触れ合ってもそこにあるのは羞恥だけだ。いやそりゃちょっとって言うかかなり気持ちいいなって思うけど! けど!! と晴香はそれを一旦頭の隅に押しのける。  のろのろとした動きで服を脱ぐ。一応綺麗に畳んで、下着もその上に脱いでいく。ショーツに手をかけると同時、その変化に気付きうわあと思わず声が漏れた。羞恥の極みで最早泣きそうである。  色まで変化しているショーツを目にし、なるほどこれが濡れるというやつ、とするにも恥ずかしい自覚にキレたい。こんな一人ドMプレイみたいなことになっているのも全部先輩のせいだ! 先輩じゃなければこんな風になったりしないし! そう晴香は脱衣所で叫ぶ。必死に叫ぶ。心の中で。  晴香の中では葛城と同じくらい好きで尊敬している相手ではあるけれど、それでもやはり中条にされてもこうはならないだろう。そもそもからして、そうなる前に拒否感が勝る。  そう、葛城以外では誰であっても無理なのだ。  その事に改めて気付くと、不意に竹原に掴まれた腕がズクリと疼いた気がした。  見た目にはなんの変化もない。うっすらと赤くなっているような、そんな気がする、かもしれない。  しかしそれよりも何よりも気持ち悪さが晴香の中を駆け巡る。  だめだ、これ綺麗に洗い流さなきゃ気持ち悪い……  浴室に入ると晴香は勢いよくシャワーのコックを捻った。  
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